■リヴァイアサン大祭『ふたりで、一緒に』
祭りのざわめきが遠くに聞こえる丘の上。ちらちらと舞う雪が、祭りを彩る華やいだ街の明かりを反射し、柔らかく輝く。静寂を好むアレキサンダーは独り、丘に座り遠くの祭りをなんとなしに眺めていた。
さく、さくと薄く積もった雪を踏みしめる音が響く。
「ここにいたんですか、アレさん。探してたんですよー」
穏やかな笑顔で話しかけたのはヒヨリ。賑やかな場所が好きな彼女だが、今夜の大祭はアレキサンダーと過ごす事に決めていた。
「アレさんはお祭り行かないんですか?」
「……遠くで見てる方が性に合ってる」
笑顔を崩さず問いかけるヒヨリに、景色を眺めたまま答えるアレキサンダー。
「んー……じゃあ、私もここで一緒に眺めます」
そう言うと、ヒヨリはアレキサンダーの横にちょこんと座り込んだ。
「勝手にしろ」
相も変わらず真っ直ぐを見つめたまま答えるアレキサンダー。心なしか頬に朱が指している様に見えた。
穏やかな沈黙が2人を包み込む。ふと、ヒヨリが疑問を口にした。
「……アレさんは、今もひとりでいる方がお好きですか?」
「俺は……」
かつて敬愛していた師匠を失ってから、大切な人を失う辛さから逃げる為に孤独を選び続けたアレキサンダーは、返事を躊躇う。少し曇ったアレキサンダーの顔をじっと見つめていたヒヨリは、視線を景色へと移し言葉を更に続ける。
「私は一緒にいたいですよ」
さらりと言うヒヨリを、今度はアレキサンダーが驚いた様に見つめ、また視線を外す。更に赤く染まった頬を悟られぬ様少し俯いて、
「二人でいるのも、悪くない……と思う」
と恥ずかしそうに返事をした。
「じゃあそういうことで!」
満面の笑みで嬉しそうに言うヒヨリの表情を見て、アレキサンダーはどきりとした。
「いつもいつも……、ありがとうございます」
これまでに越えてきた幾多の冒険。そのひとつひとつが宝物のように思い出された。
気付けば、ヒヨリは目をつむりアレキサンダーに寄り掛かっていた。服越しに感じる彼女の体温と重さが、心地よくもあり気恥ずかしくもある。緊張に耐え切れなくなったアレキサンダーは立ち上がり、
「気が変わった。今から大祭に付き合え。貸しが一つあっただろう、あれを使う」
真っ赤な顔でヒヨリと目も合わせずに言うと、すたすたと歩いて行ってしまった。ヒヨリは嬉しそうに返事をし、小走りでアレキサンダーについて行く。
2人が座っていた場所に、仄かな暖かさを残して。