■リヴァイアサン大祭『Mit nahen Leuten…』
何気ない日常が、大切な時だってある――。それは大祭の活気で街が盛り上がっている最中、自宅にて静かに休日を過ごしていたヴォルフの身の上に起こった出来事だった。
彼としては、まさか今日に限って、今日までそんな事は起こらない筈だ、と思い込んでいた。だが、よもや誰が思おうか。街はお祭り騒ぎで盛り上がっているというのに、そんな日に友人が平然と押しかけて、家に上がり込んでくるなどとは。
「ヴォルフ、ご飯」
見るがいい、友人サクヤが語る用件の簡潔さを。
今日はリヴァイアサン大祭。パートナーと互いの絆を再確認する日――だというのに、そんな気配は欠片もありはしない。あるのは食い気だけだ。間違いなく、大祭で歩き疲れてお腹が減っただけの態度である。
勝手知ったる他人の家を地で行うサクヤに呆れるヴォルフだが……同時に上がり込んできた星霊三匹に目を奪われる。
つぶらな瞳で、愛くるしい姿で、家の中をちょこちょこ歩き回る光景は、ヴォルフの目尻を緩ませてしまう。こんな光景を見て、追い出せる者などそうは居ない。たとえ、星霊三匹の主人がソファにどっかりと座り、ご飯を催促していたとしてもだ。
「……少し待ってろ」
ソファの上でふんぞり返っているサクヤから目を外し、厨房に向かうヴォルフ。
星霊に免じて――そう心の中で反芻しつつ、早目の夕食に取り掛かるのであった。
そして――夕食後、サクヤが取った行動は、そのまま家に居座り黙々とスケッチブックに大祭の出来事を描写する事であった。
問答無用で乗り込んで、ご飯平らげて、そのまま自分の作業に没頭する破天荒さは如何なものであろうか。ヴォルフは頭痛を覚え、何か一言言いたくもなったが……またしても、傍でじゃれている愛らしい星霊三匹が、彼の荒んだ心を癒していく。日も落ち、二人分の料理を作ったことで多少疲労があったヴォルフは……星霊達の姿を視界に収めながら、ウトウトと眠りの世界に落ちていく。
ソファに背を預け、食事後の満腹感が睡眠欲を助成して、うたた寝を始めるヴォルフ。星霊達も、まるでそれに合わせる様に、ヴォルフの周囲で各々休み始める。静かに眠りに付く一同。
そんな中、ただ一人マイペースに、スケッチブックに筆を走らせるサクヤ。
「本日、リヴァイアサン大祭……いつも通りの日、と」
何も無い、日常の一風景。恋愛感情は無い。異性として意識した事も無い。
だから――今日も、彼女にとっては日常の一つでしか無いのだ。日常の一つでしか無いからこそ、気負わず遠慮せず、家に乗り込んで、ご飯を催促する。ただの友人だからこそ出来る信頼の証。それが二人なりの絆の再確認……なのかもしれない。
日はふけていくが、街はまだまだ騒がしい。
そんな中で、ヴォルフとサクヤは、何も無い、何も起こらない、何も変わらぬ友人としての絆のまま、いつも通りの日常を過ごしていた――。