■リヴァイアサン大祭『蜜色の灯』
蜜色の空間に広がる、一夜だけのハニーバザール。甘い匂いの漂う魅惑的な店が並ぶ中、クロアハルトとククロコは肩を並べて歩いていた。
「蜜の川、甘いお菓子! これは心躍らせない方がおかしい」
どの店を見ても密の香りとお菓子たちが出迎える。そんな光景で心が跳ねたクロアハルトがそう言った。
すると隣を歩くククロコはクロアハルトの言葉に一度表情を真面目なものにして、直後にクスリと小さく笑った。
「ハルトの洒落は貴重だ……」
クロアハルトの言葉が洒落だと思ったらしく、それで笑ってるらしい。
当人には洒落のつもりはなかったようで、それでも彼に合わせてつられて笑ってみせる。
ふと空を見上げれば、ふわふわと雪が舞っている。
それを見て、クロアハルトが再び口を開いた。
「灯りに照らされているせいか、雪もほんのり暖かく見えるね。……雪を謳う詩とか、あるかな? ロコ殿」
「暖かい雪……良い例えだね。ああ、雪の唄なら星の数ほどに……」
そう、ククロコが答えて彼はすぅ、と一度息を吸い込んだ。そしてゆったりと、遠い地の子守唄を口ずさむ。
穏やかな響きの、異郷の唄。それをしっかりと耳に残して、クロアハルトはゆるりと笑みを作った。
「そうそう、紅茶に入れる蜂蜜が欲しくてね……」
「ふむ、こんなにたくさんの蜂蜜が」
数歩、歩みを進めた先の露店の前で、ククロコがそう言った。目の前には無数の蜂蜜のビンが並んでいる。
それをあれこれと見比べていると、クロアハルトが興味津々な様子で身を乗り出してくる。
ちらりと横目でそれを確認したククロコが、再び口を開いて、彼に問いかける。
「どれがいいかな?」
「……これがいいな! とびきり綺麗で甘そうなやつ」
クロアハルトは瞳を輝かせながら一つのビンを指差した。
キラキラとした琥珀色の蜜が、彼の言うとおりに綺麗で、そして何より美味しそうだ。
ククロコはそれを確認して、小さく笑いながら、
「じゃあ、それを二つ頼むよ店主」
と、露店の主に伝えた。
そしてその二つのうちの一つを、クロアハルトへと差し出す。
「ハルトにもお土産に」
「……って、え? いいの?」
予想すらしてないかったククロコの行動に、クロアハルトは驚きの表情を見せた。
そして差し出されたままの蜂蜜のビンを手にして、嬉しそうに笑う。
「じゃあ活用しなくちゃな。お菓子に紅茶に……館に帰ったらごちそうするよ」
ビンを撫でつつそう言うクロアハルトに対して、ククロコは静かな笑みを浮かべた。
「……いつも楽しい時間を貰ってるからね。そのお礼だ。ありがとう」
そんな彼の言葉を受け止めて、クロアハルトも後に続く。
「いつもありがとうは、お互いさまだよ」
「……そうか?」
「そうだよ」
そんな会話のやり取りをして、二人は自然に笑った。
そして改めて、互いに感謝をする。
素敵な時間を作ってくれた友に。喜びを与えてくれた友に。ありがとう、と。