■リヴァイアサン大祭『月と白雪の二重奏』
「リヴァイアサン大祭か、すげーな」リヴァイアサン大祭のダンスパーティ。その会場に一歩足を踏み入れた瞬間、感嘆がリラの口をついて出る。
今日の彼女は普段とは打って変わり、白のロングドレスにヒールという『お嬢様』な装いだ。いつも着けているチョーカーも今日は見当たらない。
「仲間と過ごす、ってんならシンとだろうな」
会場に集まった沢山の人々を見ながら、彼女はとある相手の顔を思い浮かべて呟いた。
(「ほんとは仲間、じゃなくて一人の女として見て欲しいけど、な」)
そして、しまい込んだ本心を胸中に呟く。
一方、シンも会場を訪れていた。
黒いスーツに白いシャツ、そして黒い革靴、額はバンダナで隠した格好。やはり彼も、今日はいつもと違った装いだ。
「これがエルフヘイムのリヴァイアサン大祭ってやつか。大切な仲間と過ごす、ねぇ……そうすっと、弟子みたいな間柄のリラと、ってなるか」
入口から会場の中を眺めながら、彼もまたとある相手の顔を思い浮かべ、呟いていた。
奇しくも、同じように会場を訪れ、同じように相手を想いながら一人呟いた二人は会場に入ると、程なくして互いの姿を見つけた。
先に口を開いたのはシンだ。
「よう、リラ。ドレス似合ってるじゃねーか」
シンとしては何気なく言ったその一言も、リラにとっては重大な言葉に違いなかった。ドレスを褒められた嬉しさと、照れるのを隠そうとガサツな口調で彼女は礼を言う。
「これでもお嬢様、ってやつだぜ、ドレスの一つや二つ着こなしてみせるさ」
だが、やはり心の声は正直だ。面と向かっては出さないものの、彼女は嬉しさのあまり胸中で喜びの声を上げる。
(「……といってもさすがにちょっと照れるぜ」)
いつもより綺麗な姿を他でもないシンに褒めてもらえた嬉しさで照れるのを、どうにかしてリラが隠そうとしていた時だった。やはり、何気ない調子でシンがリラへと語りかける。
「一曲俺と踊らねぇか?」
思いがけないシンからの誘い。照れを隠そうと必死になっていた事に加え、思ってもみなかった幸運が舞い込んだ驚きにリラは一瞬、返事をするのを忘れていた。
それを渋っていると思ったのか、シンは気さくな口調で二の句を継ぐ。
「ガサツだから上品になんて踊れねぇけど、足は踏むなんてヘマはしねぇからよ。お前はお嬢だから上手いだろ? リードしてくれよ」
本当は沢山の嬉しさと、少しの恥ずかしさで頬を赤らめて軽く俯いてしまいたい気がしないでもない。だが、それを表に出すまいと、リラはつとめて顔を上げ、ひときわ明るい笑顔で答えた。
「おう、いいぜ! 俺の動きについてこれっか?」
その返答にどこか安心したように、シンは笑みを浮かべて手を差し出す。
そっと差し出された手を取ったリラは、新たな演奏の始まり合わせて彼と共にステップを踏み出した。
これから先も、二人が良き関係でステップを踏み出せる未来があらんことを。