■リヴァイアサン大祭『祭の終わり』
リヴァイアサン大祭ももうそろそろ終わる。祭の後は、名残惜しい空気と、一抹の寂しさが街を支配する。そんな中、一軒の店の扉を潜り、その名残惜しさに身を浸す者達の姿があった。店に入り、カウンター席に座ったソーファがほうとため息をつく。成人にはまだ少し時間があるから、リンゴジュースを注文する。隣に座るレイリーも、ざっとボトルを見回し、ウイスキーをオーダー。頼んだ飲み物はすぐに出てきた。
「もうすぐ大祭が終わっちまうのか」
「ええ……終わってしまうと思うと寂しいものですね」
二人して、今日の楽しい思い出に浸る。
「ま、せっかくだしよ。最後まで楽しもうぜ」
「……そうですね」
小さく笑い合って、乾杯。グラスを傾けながら、二人で高楼に登った時の事を話す。
「雪の高楼から眺めた景色は本当に凄かったよなあ……まあ俺は、その前の出来事の方が印象強いが」
レイリーはウイスキーで軽く唇を湿らせながら、笑う。ことり、と彼女の頭が、彼の肩に触れる。冗談めかしたように、彼は話を続けた。
「登る階段の途中で振り向いた時に……ソーファ?」
いつもなら慌てたような反応が返るはずが、それが無い。いぶかしげに思いソーファのほうを見れば、すやすやと息を立てて穏やかな寝顔が間近にあった。レイリーの口元が、僅かに緩む。そうか、昼間頑張っていたものな、と心の中で呟いた。彼女の眉がぴくりと動く。
「んぅ……」
ソーファは、今日ためにと練習を重ねていた。そして今日、ご馳走を作るために相当張り切っていたのは、彼も目の前で見ているのである。それはもう、普段慣れない道具まで持ち出して、気を張ってまで作っていたのだ。おかげで、とびきり美味なご馳走が楽しめたのだが。
「今日は本当にいい日だ」
そのままレイリーに寄りかかるように、ソーファの体から力が抜けていく。彼は、そのまま優しく、彼女を抱きとめた。お前のおかげだな、と呟きながら、耳元で小さくささやく。
「……愛してる、ソーファ」
彼女の口元が、ほころぶ。
「うん、私も……」
どきり、とレイリーの心臓が跳ねた。慌てて彼女の名を呼ぶ。
「……ソーファ?」
返事は、無い。寝言だったようだ。ため息をついて、彼女の髪をいとおしげに撫でる。耳元のイヤリングが揺れた。
「慌てさせやがって……」
彼の腕の中で、ソーファは眠る。今日、貴方の傍にいられて本当によかったと、心の底から思いながら。祭が終わっても、二人の仲はなおいっそう、縁が深くなっていくだけ。そして、祭りの後も二人だけの夜は更けていく。