■リヴァイアサン大祭『おやびんといっしょ』
――雪が冷たいのはきっと、握った誰かの手が暖かい、と知る為だ――。一年に一度だけ、水の星霊リヴァイアサンが半実体化して空を舞うリヴァイアサン大祭の日。
エルフ達が互いのパートナーと共に、絆を確かめ、祈りをささげるこの日、彼らに習って、互いの絆を深めようとする2人がここにもいた。
「わー! ユキだ、ユキ〜! おやびん、ユキだよ〜!」
「雪なんてどこだって降ってるのに。元気だなー、イグニは」
一面の白に覆われた林の中、お母さん特性のマフラーをたなびかせはしゃぎ回るイグニ。
その後からやれやれといった感じでついて来ているトウカ。
「つか、雪降る位だから、寒いとは思ってたけど、此処までとは……」
かじかんだ手を擦り、暖をとろうとするトウカの手は真っ赤に霜焼けていた。
イグニはといえば、寒さも何のその。と言わんばかりに、目に付いたもの全てに感動している様子。
そんなイグニの様子と空を泳ぐリヴァイアサンへと視線を交互させながら、星霊バルカンでも抱えてたらあったかいかなー、なんて考えるトウカ。
「おいで、バルカン、スピカ、ヒュプノス」
そっと呟かれた言葉に導かれ、3体の星霊たちが呼び寄せられる。
「わ、せいれーさんだ! ね、いっしょにあそんでもいいよね?」
現れた3体の友達の姿に、より一層テンションのあがったイグニ。
答えも聞かないままスピカを肩に乗せ、ヒュプノスを抱きかかえ走り出してしまった。
「ユキがいっぱいだね!」
雪の上を所狭しと走り回ったり、雪を固めてウサギを形作ったり……。
そんなイグニと一緒に、なんだか楽しそうに飛び回る2体の星霊を見て、
「星霊達も雪って珍しいのかな……」
なんて思いながらも、抱いたバルカンから暖をとろうとしているトウカ。
そんな寒そうなトウカの様子に気がついたのだろう。
こそこそと何かをはじめるイグニ。
「ん? イグニ、何して……」
「せーの!」
掛け声と共に、トウカの首元にふんわりとした暖かさが包み込んだ。
「ボクのながーいマフラー、おやびんにもまいてあげればポッカポカだよね!」
何故なら、イグニが自分のマフラーを、ヒュプノスとスピカと一緒にトウカに巻いたから。
「つか、スピカとヒュプノスも……!?」
突然現れた暖かさに、少し困惑気味のトウカ。
「へへー ポッカポカ?」
「あぁ、ありがと……」
でも、それも少しだけ。
すぐにイグニの暖かさはトウカの心へと届いた。
わしゃわしゃっとイグニの頭をするのは、照れ隠しなトウカのありがとうの気持ちだったのだろう。
ちゃんと伝わったイグニも、何処となく嬉しげな様子だった。
「さぁ、いくよ。イグニ」
「うん!」
どちらからとも無く、差し出された手をつなぐ2人。
もうその手は、かじかんでなどいないのだった。
――握った手が暖かいのはきっと、そこから伝わる心が嬉しい、と想うからだ――。