■リヴァイアサン大祭『この手が届くのなら』
リヴァイアサン大祭の日だけ、不思議な光が灯り、森の木々を照らし出す……。そんなウェンディの森を、ユッカとダリアは訪れていた。
「リヴァイアサン大祭というのは、本当に不思議なものだな」
「そ、そうですね」
エルフ達から事前に色々な噂は聞いていたが、実際に目の当たりにしても信じられないくらいだと、そう呟きながら大木を見上げるダリアに、ユッカはこくこくと頷いた。
「ほ、本当に不思議な星霊ですよね……。届かないと分かってても手を伸ばしたくなるような……あ、何言ってるんだろう私」
変な事を言ってしまったと、首をふるふる振るユッカだが、ダリアはそれを笑ったりはしなかった。
ただ、ダリアらしいシャンとした動作で右手を伸ばし、微笑ましげに表情を緩める。
「ふふ。こうすると指先に止まってくれそうにすら見えるのに。でも近付けばきっと、私達の方が指先に乗る位、小さいのだろうね」
本当に惜しい事だ、とダリアは呟く。
「あの背でダンスでも踊れたら、とても素敵だろうに」
空のリヴァイアサンを見上げて笑うダリアの姿に、思わずユッカは目を奪われる。
「せ……星霊術士の人がいたら呼び出したりとか……あ、でも、創世記の星霊だから無理かな」
一瞬、間を置いて何とかならないだろうかと考えるユッカだが、いい案が思いつかずに俯く。そんな姿を見て、ダリアはからからと笑った。
「まあ、今の私達には無理だな。だが、いつかは届く日が来るかもしれないよ」
ダリアが言うと、本当にそうなるかもしれないという気がしてくるから不思議だ。ダリアのそんな姿につられるように、ユッカも空を見た。
暖かく灯る光の向こうで、まるで舞うように浮かぶリヴァイアサンを。
「うん……いつか、そんな日が来たらいいな」
「そうだ。そういえば、星の見える空がある場所では、流れる星に願いをする風習があるそうだよ。かわりに、彼に願ってみるのもいいかもしれないね」
「へえ……そうなんですか」
……じゃあ。
ユッカはリヴァイアサンを見上げたまま目を閉じて、祈った。
どうか、この願いが、叶ってくれますように……。
「…………あ」
目を開けた時、ユッカはそんな自分をジッと見つめているダリアに気付いた。視線が合うとダリアはふっと微笑を浮かべる。その仕草を見ていたら、なんだか妙に……照れくさくて。
ユッカは思わず耳まで真っ赤になってしまうと、それを慌てて誤魔化そうとする。
「あ、ええと、その。あ! 私、そろそろ行かないと!」
それじゃあダリアさんまた今度!
それだけ何とか言い残して駆け出していくユッカを、「ああ、それじゃあ」とダリアは小さく手を振って見送る。
ユッカが一体、心の中で何を願ったのか。
――それは、星霊リヴァイアサンだけが、知っている。