■リヴァイアサン大祭『―貴女へ月を贈る―』
淡い藍色の夜空、野原にはふんわりと積もった雪。きりっと冷え込んでいたが、二人の間だけは暖かな空気が流れているようだった。
「これ、くーちゃんに」
リィズが取り出したのは紅い三日月を模したイヤリングだった。
クリスマスのプレゼント。恋人であるクレナにふさわしいと思い、選んだ品物。
「ありがとう」
にぱぁと笑顔を見せたクレナにリィズも満足したのか、柔らかに微笑む。
「つけてやるから横向いて」
クレナは横を向いて耳をリィズの方へ向ける。
「っ」
冷たい感触が耳たぶにあたる。イヤリングの金属部分だ。
だがそれと同時に人肌も触れる。リィズの指先……。
この寒い中でもリィズの指先は温かく感じ、それがこうやって自分の肌に触れてることでクレナは照れてしまい、自然と頬を赤らめていた。
嬉しくてたまらない。このまま時が止まってしまえばいいのに。
「ん、どうかしたか?」
そんなクレナにリィズはひょいっと顔を近づける。
「ど、どど、どうもしてないよ!」
慌てて声を出すも変な風に上ずり、その恥ずかしさもあってかササッと横を向く。
その横顔からでも、照れた顔はうかがうことが出来るのだが。
ふと。
この時が永遠だと。
そう思ったが。
もしものこと。
本当に己で。
嬉しさや気恥ずかしさが胸のうちを占めていたクレナに、突然不安が圧し掛かる。
本当に自分などがリィズといて良いのだろうかという疑問。
一度思えば心を覆う。楽しい気分や、嬉しい気分がどこかへ行った様に。
「りっちゃん……相手が僕で、本当に良いの?」
その不安が、言葉に出ていた。
だがそんな不安を打ち消すように。リィズは微笑んだ。
「自分を信じなくてもいい。俺を信じろ。くーちゃんの事が大好きなのは絶対に変わらないぜ」
優しく甘い言葉を投げかけてくれる。
それがリィズの本心であることぐらい、クレナにも分かる。
心の不安は、一気に霧散した。今は胸いっぱいの嬉しさがあるだけ。
「もう、またそんな事言って……ど、どうしよう、嬉しい」
顔を赤らめて、恥ずかしそうに照れる。やはりリィズを好きでいてよかったと、そう思える。
「そんなくーちゃんが愛しい」
イヤリングをつけ終わったのだろう、リィズはクレナの頭を撫でながら抱き寄せた。
二つの温もりが、一つになる。
「俺の一番はいつだってくーちゃんだ」
「ありがとう……僕にとって、一番大事な人もりっちゃんだよ」
クレナもぎゅっと抱き返す。自然と、その腕に力がこめられていた。
二人の絆と想いを繋ぐ、紅い三日月。
二人が離れていても、お互いの心は常に共に。
これから先も不安や寂しさが襲うかもしれない。
そのときはこのイヤリングに触れて、リィズがくれた愛の言葉を思い返そう。
クレナはリィズの胸の中で、今日というひと時を刻み込むのであった。