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ふたりのリヴァイアサン大祭

月舞桜花・リディア
絵空事の声・ニノルダ

■リヴァイアサン大祭『聖なる光の夜の奇跡』

 リヴァイアサン大祭の日。ある者達は広場で、ある者達は我が家で、パートナーと共に祈りを捧げる日。そんな日の夜に、ニノルダとリディアは、郊外へとやってきていた。彼女の細い手で、彼の手をそっと引き、内緒の場所へと向かう。
「私が来たかったのは、ここなの」
 辿り着いたその先は、ウェンディの森と呼ばれる場所。リディアの後に着いてきたニノルダは辺り見回して、ほうと感嘆のため息をつく。
「なるほど、この森か。妖精の奇跡、改めて見ても不思議な光景だよね」
 隣のリディアと共に風景に見惚れながら、そっと木にもたれかかる。
「ほんと……すごく、綺麗……」
 お互いにしばし、動く事もせずに景色に見入ってしまう。それは儚く、ともすれば消えてしまいそうな月明かりがあたりを照らす。
「なんて、幻想的なんだろう……これが、妖精の奇跡、か……」
 呟きは、溶けて消えてしまいそうな程の音色となり、木々の隙間に抜けていく。そしてしばらくの後。ニノルダが、不安そうに己の左手を見て、歌うように言葉を零す。
「妖精の祝福は、この指輪にも宿ってくれるかな」
 ニノルダは後ろからそっと、リディアを抱きしめた。そのまま重ねた手の薬指には、揃いの指輪が光る。彼の表情は、何処か不安げにも見えた。
「きっと、宿ってくれると思うよ」
 抱きしめられ、彼女は少し驚きつつも微笑みを返す。
「だって、この光は……妖精の奇跡なんだから。信じていれば、きっと宿ってくれる」
 リディアは凛とした声で答え、彼の揺れる瞳を覗き込む。彼も、不意に不安げな表情が和らいで。そして、二人は一瞬だけ目を合わせて微笑む。重ねた左手に、右手を添えた。
 気がつけばお互いに、揃いの指輪に視線を移し、愛おしげにそれを眺める。二人は黙ったまま、それぞれ心の中で願う。
(「どうか誓いが真実のままであるように。彼女を信じ続けていられますように」)
 彼は、誓いが永久に続くようにと祈り。
(「今日の奇跡と幸せが、この先ずっと続きますように。永久に彼の光であり続けられますように」)
 彼女は、この幸せが永久に続くようにと祈る。共に同じ空を見上げながら。
 気づけば雪が振ってきていた。月光を照り返し、ふわふわと、白い妖精達が舞い踊る。微かに身を振るわせたリディアを、ニノルダはぎゅっと抱きしめた。そのまま二人は、幻想的な景色を見つめている。この素晴らしい夜に、妖精がもたらす祝福を信じて……二人はそっと身を寄せ合ったまま、静かに時を過ごした。
 ただ静かに、祈りを捧げながら。
イラストレーター名:秋月えいる