■リヴァイアサン大祭『絆を新たに』
既に陽が落ち、辺りは宵闇へと変わっていた。闇の中……雪が淡い光を伴って舞い散り、一帯は仄かに幻想的な雰囲気を醸し出す。二人は樹氷の合間をゆっくりと歩いた。
闇は冷たい空気と樹氷とあいまって、青く染まっているようにも感じられる。
ヘキサドリィはぽろぽろと涙をこぼしながらも歩を進め、涙に濡れた瞳でようやく一本の木を見つけた。
ツバキの目にも映り「あれか」と口の中だけで呟くと、小さな声が届いた。
「……ごめんね」
それは隣のヘキサドリィの声で、ツバキは視線と隣へと移す。
ゆるゆると瞬くツバキに、ヘキサドリィはもう一度、ここまで辿りつくまでのことを謝った。
亡き母との思い出に溢れた涙。
そんな思いを受け止めて、抱き寄せてくれたツバキにヘキサドリィは続ける。
「……ありがとう」
そう言うと、ヘキサドリィはいつもの柔らかな笑顔を浮かべた。
その笑顔と言葉にツバキの中に満ちるような思いが広がる。
「ヘキサドリィ」
呼びかけ、ツバキもまた微笑んだ。
ヘキサドリィの頬に泣いた痕は残っていても、確実に今まであったような隔たりのようなものがなくなった。そんな印象をツバキは見て取る。
弱さを見せるのは難しいことだから、それをマスターが伝えてくれたことは嬉しいことだった。
冷たく澄んだ空気が二人の頬を撫でる。
ツバキが足を進めて木を背にして寄りかかると「ほらこっち」と手を広げて優しい視線を送った。その視線に誘われ、ヘキサドリィはルバキの傍らに並ぶ。
寄り添うヘキサドリィの柔らかな髪に触れ、そのままツバキは頭を撫でた。
くしゃくしゃと頭を撫でられてくすぐったそうにしているヘキサドリィを見てツバキは再び微笑む。
互いの視線が絡まり、どちらからともなく笑みを深めると、ふいに二人で空を見上げた。
気温は低い。空気もまた、冷たい。
……けれど。
感じられる温もり。確かに傍らにある、存在。
ツバキとヘキサドリィと――そんな二人をリヴァイアサンも祝福するかのように、悠々と空を泳いでいくでのであった。