■リヴァイアサン大祭『せつなくて あたたかい』
木々に優しい光が灯り、幻想的な雰囲気がウェンディの森を包み込む。今日はリヴァイアサン大祭。一年でもっともロマンティックな日に相応しい華やかな色彩に溢れたその森を、アズハルとコスモスは手を繋いで歩いていた。
2人が語り合うは、これまでに重ねてきた或いは越えてきた、2人だけの大切なエピソード。
旅団で出会ったあの日。恋に落ちたのはどちらからだったか。軽口を言い合い、笑い合う2人。
「いろんなデートもしたよね」
笑いの余韻を残しつつ、懐かしくも暖かい物語に想いを馳せるアズハルに、コスモスは「そうですわね」と柔らかい笑みで頷く。
夜の舞踏会、いつもよりも大人っぽく見えたコスモスにどきどきしたアズハル。初めてのダンスながら懸命にリードしてくれたアズハルの気持ちが嬉しかったコスモス。このまま時が止まれば良いと、叶わない想いを口にしたあの日。
兎を追い掛けふざけ合ったあの日。コスモスからの思いも拠らない言葉に、照れながらも彼女を抱きしめた、あの日。
あの夏の夜。恋人達の祭りの日。伝説の恋人達と同じように、初めてのキスをした……あの日。
愛を誓い合った2人だったのに……。
コスモスが止めたいと願った『時』。だけどそれはやっぱり残酷で、無情に淡々と進み続けた。
刻み続ける『時』は、いつしか2人の間にすれ違いを生み、そして……。
繋いだ手の温もりが心にも暖かい。今日のデートに応じてくれたコスモス。あの頃にように笑い合ってくれるコスモス。果たして自分と同じ気持ちで居てくれるだろうか。
森の中の小さなベンチに、手を繋いだまま腰を掛ける2人。高まる鼓動を落ち着けるように、アズハルはゆっくり息を吐いた。
「これまでたくさん迷惑を掛けてしまったね」
「……そんなこと」
無いと言うように、コスモスは目を瞑ってゆっくりと首を振った。アズハルは穏やかに微笑む。二度目の告白は、かつて最初に結ばれた時の告白以上に緊張し臆病になるものだったが、コスモスの仕草が、手を伝わってくる体温が、彼に勇気をくれた。
「後ろめたい気持ち以上に、その何倍も、好きっていう気持ちが大きいんだ。俺は、これからも君の傍らにいたい」
訪れた一瞬の間。返事を待つアズハルには永遠にも思える間。
「貴方の傍にいて、同じ景色と季節を感じたい」
ゆっくりと、想いを語り始めるコスモス。
「永久に、永遠に、傍に在りたい。恋人に、なってくれますか……?」
木々の優しい光に照らされながら、2人は誓いのキスをする。もう離れたくないと、灯された光に願いを込めて。
別離の時を経て再び心を重ね合わせた2人に、再び恋人として重なり合った『時』が刻まれ始めた。
失う怖さを知った。失って初めて知る大切さを知った。そんな2人にはきっと、訪れるのだろう。
コスモスが望んだ『永遠』が。