■リヴァイアサン大祭『かんしゃのきもち』
リヴァイアサンが姿を現すその日。空からは真っ白な雪がふわりふわりと降り続けていた。
「セルジ見て! エルフヘイムってこんなに雪が降るのね」
庭一面に広がる雪景色に、ルリビタキは瞳を輝かせる。
「アクスへイムとはずいぶん違うんだな」
これほど降り積もる雪を初めて見たのは、セルジも同じこと。感嘆の声を漏らして、辺りを不思議そうに見回す。
そんな彼の隣でルリビタキはしばし雪を踏みしめる音を楽しんでいたが、不意に悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「せっかくこんなに沢山雪があるんだから、何かしない?」
言われ、しばし考えたセルジはやがてぽん、と手を打つ。
「ルリ、雪像って知ってるか?」
彼が思い出したのは、以前本で読んだ雪にまつわる遊びだ。
「作ってみるか?」
話を聞きながら、既に好奇心を抑えきれない様子だったルリビタキは、セルジの提案に一も二もなく頷いた。
「可愛いのがいいよね? うさぎとかどうかな」
これが二人の初の雪うさぎ作りの始まりだった。
「出来……た?」
ルリビタキが疑問系なのは無理もない。
二人がそれぞれ作った雪うさぎ達は、何かが欠けている気がした。輪郭がでこぼこであるせいもあって、全体的に見ても一概に可愛いとも言いがたい。
一つ唸ったのはセルジ。
「もしかして、丸く作った方が可愛くなるんじゃないか」
「あっ、そうね。よーし」
さくさく。ぺたぺた。せっせと雪うさぎ達のお化粧は続いていく。
「ここはこうした方が良いんじゃないか」
「この辺りに目をつけた方が可愛いかも」
協力しての作業は思いの外楽しい。時には笑いあいながら雪と戯れる二人の姿は、誰が見ても微笑ましく、和やかなもの。
そして、そんな楽しい時間もあっと言う間に過ぎ――。
「出来たっ!」
「やったな!」
今度こそ完成した雪うさぎ達を見て、二人は満足げに微笑んだ。
綺麗な曲線を描いた滑らかなうさぎのライン。そして赤い実を並べて作った瞳はどこか円らで愛らしく、緑の葉で模した長い耳もうさぎらしさをアピールしている。
二人で作った雪うさぎは、どちらもとっても可愛い。
そして、これはこうして雪が降らなければ出来なかったことだ。
と、そこでルリビタキがそういえば、と口を開く。
「今日はリヴァイアサン大祭ね?」
「あ、そうだった」
リヴァイアサンが空を舞うその日は、エルフ達がパートナーとの絆を確かめ合う日とされている。
パートナー。それは、自分達に当てはめるならば――。自然と二人は顔を見合わせた。
「セルジ、いつもありがとう!」
「こっちこそ、ありがとうな。ルリ」
たまには、感謝の気持ちを伝えるのも良いよね?
それはちょっぴり恥ずかしいけれど、本当の気持ちだ。
「「ハッピー・リヴァイアサン! これからもよろしく!」」
意図せず重なった声に、同時に吹き出した。
想いは一緒、みたいだ。
雪の降ったその日。
二人が作ったのは、彼らのように仲良く並ぶ雪うさぎ。