■リヴァイアサン大祭『蜜にも負けない雪野原のお砂糖』
雪野原に色とりどりの灯火があちらこちらで輝き、そこで行われている舞踏会をより一層華やかに見立てる。その美しい世界にも心を奪われていたが、それ以上に。
隣に立つスイトを意識してしまっているシラユリは相手にそれを気取られないように至って普通の己を演じていた。
「きょ、今日はお誘い頂き、ありがとうございます」
しかし悲しいかな、言葉にしてみるとたどたどしさが現れてしまっていた。
普段の、冒険者を彷彿とさせる服装と違い、今日は正装。舞踏会に似合う燕尾服。
それを見ているだけでも心音が激しく高鳴るというのに、スイトはじっとシラユリを見たまま、微笑みを浮かべていた。
「いや、その、ああ」
スイトもシラユリと同じような気持ちであった。
大人っぽく落ち着いた淡いブルーのドレスに身を包んだシラユリは、いつもよりもずっと美しく見える。
お互いが、お互いを。
意識しすぎて、身だしなみから仕草まで、すべてが気になりすぎて妙な空気が流れていた。
そんな二人を助けるためか。
美しい旋律の音楽が流れ始めた。
それに合わせて周囲の人たちも各々の相手と共に踊りだす。
「……踊ろうか」
そっと。スイトは左手を差し出す。
シラユリは右手を恐る恐る出してその手に触れる。
触れた瞬間。
ぎゅっと手を握られ、そのままスイトにリードされるよう舞踏の場に連れて行かれた。
「あ、あのっ……」
腰に回されたスイトの手に心臓がより一層跳ね上がる。
その所為で足元もおぼつかない。下手をすると相手の足を踏みかねない。
そんなシラユリに気づいたのか、スイトはゆっくりと、彼女のペースに合わせだす。
「大丈夫か?」
「はい……」
スイトはぐっと顔を近づかせてシラユリに問う。
ドレスをまわせて踊るシラユリの美しさに、心を奪われて自然と顔が近づいていたのだろう。
それが逆にシラユリの心を激しく緊張させていることになっているとは、気づいてもいなかった。
ダンスも終盤に差し掛かり、シラユリの心も落ち着いてきたのか、やっと三拍子のロマンチックな音に合わせて優雅に踊れるようになっていた。
密着した身体からはお互いの熱が伝わってくる。最初はそれさえも気恥ずかしいものだったが、次第に慣れてきた。
スイトもそんなシラユリを堪能するように、端々で彼女に微笑を投げかける。そのたびに、少しだけ彼女のステップが乱れたりもするのだが。
まるでおとぎ話。美しい世界で、綺麗な音色にあわせ、想い人と踊る、夢のような世界。
この夜会は、二人にとって忘れられない思い出の一ページとなるだろう。