■リヴァイアサン大祭『リヴァイアサンの丘に咲く情熱のポインセチア』
その日は年に一度、リヴァイアサンが半実体化して空を舞う大祭。大切な人と過ごす大切な日。
宴席を辞した男女がリヴァイアサンの丘を訪れていた。
澄んだ冬の夜空は高級なビロードのような濃紺で、この近くを飛ぶリヴァイアサンの姿をより神秘的なまでに美しく見せていた。
一本の大樹の傍で二人は寄り添い、楽しかったパーティの余韻を味わう。
夜空を切り取ったような紺色のイブニングドレスに真雪を織ったような白いフード付きのマントを羽織ったサフィアは、隣に立つ男に言う。
「楽しかったわね?」
「ああ、まっこと楽しい夜ぜよ」
男――白いタキシードという礼装のリズンは、いかにも満足そうに即答し、二人は微笑み合った。
サフィアは心から思う。
隣に信頼出来る人がいることで、こんなにも自然に強くなれた。
それはとても心地いい。
そんなサフィアにリズンがポケットから取り出して披露したのはポインセチアを象って自身で彫った髪飾り。
「これは、わしの自信作じゃ。木彫りじゃけんど、おまんには似合うと思うての」
リズンがそっと飾ってやれば、品よく紅色が塗られたそれは銀色のサフィアの髪に映え、思った通り、よく似合っていた。
サフィアの髪に触れる武骨な男の手指には、いくつもの細かい傷。
きっと、納得がいくまで何度も彫り、木を削っては手直しを繰り返したのだろう。
リズンがそうまで心血注いでプレゼントを作ったのにはわけがある。
すなわち。
「サフィ……わしはおまんのことが好きじゃ。わしの傍におれ」
思いの丈を込め、打ち明けること。
照れながらの告白は、その表情を見れば、言葉を聞けば、どれだけ真剣か伝わってくる。
思いがけない言葉に「嬉しい」と微笑み、サフィアが問い返したのは、決して疑ったのではなく確かめたかったのだ。
私でもいいの?と。
「おまんがいい。おまんじゃないといかんがぜよ!」
リズンはしっかとサフィアの肩を掴み、またも真っ直ぐに即答。
その情熱的な眼差しと優しい言葉が、心の氷を溶かしていく。
溶けた心の氷は、涙となってサフィアの青い瞳から零れ落ちて。
「私も……好きよ。きっとあなたが思ってくれてる以上に……」
そっと目を閉じる。
瞼に、頬に、そして唇に。
柔らかな感触が伝わるのを、どのくらい感じていただろうか。
互いを愛する時間、共に過ごす時間、そして離れていても相手を想う時間。
情熱は、寒さでは消せない。
男の手で作られた真剣な思いのポインセチアは、ただ一人の女の髪に咲いて決して枯れることは無いだろう。