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ふたりのリヴァイアサン大祭

永遠のポラリス・シェキーラ
子之星を巡る黝翠ヱ鞘・アムオス

■リヴァイアサン大祭『Beauty and the Beast 〜誓いのキスを〜』

 その日、二人はアムオスが院長を勤める孤児院へ『里帰り』をしていた。
「あっ、見て!」
「わーっ、おかえりなさい!」
「みんな元気にしてたか?」
「うんっ」
「あのねあのね、この間……!」
 二人を見つけた子供達が、わっと歓声を上げて駆け寄ってくる。彼らにアムオスが柔らかく笑いかけると、子供達は不在の間の出来事を、我先にと語り始めた。
(「今までずっと旅暮らしだったから、里帰りなんて初めて……」)
 子供達の様子に、シェキーラは目を細める。生まれて初めての里帰りは、たくさんの子供達の可愛い笑顔に囲まれて……ちょっと胸が痛い感じがして、嬉しい。

 二人は孤児院の中に入ると、早速荷物を広げた。
「これ、なに?」
「人形劇の道具よ」
 興味深々といった様子の子供達にシェキーラは説明する。二人がエルフヘイムから運んできたのは、彼らに披露する為の人形劇の道具。
 舞台のセット、人形、小道具……。子供達はキラキラした目でそれらと二人を見比べて。
「「「見たい!」」」
「わかった。ちょっと待ってろ」
 苦笑して準備するアムオスをシェキーラも手伝って、準備が整ったら早速上演開始だ。
 人形劇に登場するのは、呪いで野獣に変えられてしまった青年と、彼と出会った可憐なお姫様。
 最初は青年を怯えていたお姫様も、次第に青年の優しい心に触れて――彼に、恋をする。青年だって、想いは同じ。初めて会った時から彼女を愛している。
 でも、野獣は彼女と一緒にいられない。何故なら……戦って、倒れてしまったから――。
「愛してる。あなたがどんな姿でも。だから私を置いていかないで!」
 アムオスが操る人形に、シェキーラのセリフが重なる。
 ……それはまるで、あの時のよう。
 生死不明になったアムオスを、一人で待ち続けた、あの日が脳裏に蘇る。
 あの時、待ち続ける事は、とても辛かった。でも……こうして『里帰り』をして、シェキーラは思う。
(「帰る場所があるっていうことは、やっぱり大事なことなのね」)

「……愛してるわ。私のビースト」
 セリフと共にセットの裏側で、シェキーラはアムオスの頬に手を添える。
 舞台に視線を注いでいたアムオスが驚いているが、シェキーラは構わず彼の顔をこちらへ向けた。
 ――愛してるわ。寂しがり屋のアムオス。

 惰性のように動き続けたお姫様の人形は、倒れた野獣へキスをする。
 それに合わせて、シェキーラもまたアムオスへ、優しいキスをする。
 ……劇の音楽がストップしてしまったけど、子供達にはそれも演出だと思って貰えるだろう。
(「……泣いてるのね」)
 鼻をすする音、涙混じりにビーストを呼ぶ声が聞こえて、シェキーラは少し申し訳ない気持ちになる。
(「でも、大丈夫」)
 このキスが終わったら、また再び音楽が鳴り響いて、そして。

 お姫様のキスで、ビーストは蘇る。そうしていつまでも二人は幸せに暮らすのだ。
 ――もちろん私達も。ね?
イラストレーター名:渡辺純子