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ふたりのリヴァイアサン大祭

デリラの檻・クリスチーナ
饒彩の指先・ヤノッシュ

■リヴァイアサン大祭『貴婦人の腕の中で』

 なだらかな平野の中心に『彼女』が立っている。
 粉雪を体に纏い、名の如く『貴婦人』のような美しく気高い姿を魅せる――大樹。
 絆を持った二人がその大樹に登り、枝葉の先に輝く結晶を容器に集めれば『貴婦人』が祝福してくれると云われているのだ。二人が持つ、パートナー同士が持つ絆を。
 その話を聞き、『貴婦人』の手の先に輝く結晶を収めた者が居た。
 大切に、結晶を収めた瓶を手に持つ一組の男女――ヤノッシュとクリスチーナの二人。
「……結晶が融けるより前に、私が融けそうだ」
 ヤノッシュの腕に抱かれたクリスチーナは、瓶の中の結晶を見つめながら呟く。雪が積もった銀世界。吐く息は白く、寒さが辺りに在ると言うにも関わらず、クリスチーナは暖かさしか感じない。
 抱きしめる温もりがある。雪も心も、全部融かしてしまいそうな、愛しい人の温もり。
「……なら、本当に融かしちゃおうか」
 悪戯っぽくヤノッシュは笑い、そっとクリスチーナの鼻先に口付ける。思わぬ場所に口付けられたクリスチーナは拗ねたようにヤノッシュを見る。常時冷静である事を念頭においている彼女にしては珍しい感情の現し方。
 ヤノッシュの前だからこそ出てくる、クリスチーナの顔。
「……貴方は、時々とても意地悪だな」
「チナちゃん赤くなってる……耳も……頬も……唇も……全部」
 発した言葉の順に、指先で触れていく。冷たい肌を、冷たい指で触れていく。
 だと言うのに、ますますクリスチーナの顔は赤く、体は熱くなる。
 羞恥の他に――内から溢れる歓喜が、彼女の心を熱くする。
 そんな、溢れ出てしまいそうな感情を押さえつけて、クリスチーナはヤノッシュの手を取る。
 そして――今度は彼女が悪戯をする番。順々に男の指を口付けしていくクリスチーナ。指の一本一本を丁寧に、優しく、想いを込めて。
 最後の一本に唇が触れられて、ヤノッシュは悪戯を終えたクリスチーナの顎を掴む。顎を掴んで上を向かせる。
 瞳と瞳が交差する。瞳を見て、互いに理解する。二人とも、求めている物は同じなのだと。
「どうせ融けるなら二人で解けちゃおうか?」
「……貴方は、本当に……」
 男への返答は笑顔と……口付けで。触れ合う唇と唇が、何よりも雄弁な彼女の返答。
 幾度となく、終わりが無いかのような、永遠に続くかと感じさせる――情熱的な二人のキス。
 これからも、この先も、ずっと続くように。
 大樹の上で、二人の愛は続き――それを証明するかのように、瓶の中の結晶は優しく輝いていた。
イラストレーター名:橘花 もに