■リヴァイアサン大祭『ぷれぜんとこうかん』
ぎゅ、ぎゅ、と目の前を行き交う人々が雪を踏みしめる音が、やけに大きく耳に届いた。街はリヴァイアサン大祭一色に包まれ、賑やかな声が飛び交っている。
「………………」
それらをぼんやりと眺めつつ、ベニは一人、ベンチにちょこんと座り、この待ち合わせ場所に来るべく人物を待っていた。
ふぅ、と息をこぼすとそこから真っ白の綿のように、吐息は姿を変える。
一度形となって、それは次の瞬間にはあっという間に崩れて空気に溶けていった。
間近の光景から遠くへと視界を向けたところで、ベニの瞳の向こうがさえぎられた。
それに一瞬だけ驚き、彼はわずかに体を震わせるが、視界に捕らえた次の影に肩の力を抜く。
「待たせてもうた?」
聴きなれた声が、頭上に降ってくる。
それをきちんと耳にしてから、ベニはゆっくりと顔を上げた。
目の前には、待ち人であるマキヤが立っている。そしてベニの視界を最初にさえぎったものは、彼が両手いっぱいに抱えていた大きなクマのぬいぐるみだった。首にはリボンがかけられている。
「……プレゼントやで」
じぃ、と見上げてくるベニに対して、マキヤが小さく笑いながらそう言った。
するとベニは嬉しそうに笑って、きゅ、とクマのぬいぐるみに抱きついた。
「ありがとっ」
大きなクマのぬいぐるみ越しにそう告げられる、小さな息子のお礼。
それを受け取ったマキヤは、にこりと微笑んだ。
「――さて、お腹減ったんちゃう? ご飯でも食べに行きますかね」
わずかな間を置いて、マキヤがそう言いながら歩き出す。すると彼のコートの端をくい、と引くベニの姿があった。
マキヤはそれで足を止めて、ベニをふり返る。そして彼との目線を合わせるために、その場で腰を下ろした。
ベニはマキヤのそんな視線を見ながら、慌てて持参していたカバンに手をやり、その中に入れてあるものを取り出した。
「……!」
ふわり、と首のあたりが暖かくなる。
マキヤはその感覚に一瞬だけ驚きを見せて、瞳を見開いた。
彼の首の周りを包んだのは、ベニが取り出した手編みのマフラーだった。
「ぷれぜんとこうかん♪」
にっこりと笑みを作りながら、ベニがそう言う。
マフラーは彼が子供の手で一生懸命作り上げたもので、ところどころにほつれなどが見受けられるがそれでもマキヤにとっては何よりのプレゼントになるだろう。
「……ありがとぉ」
嬉しい気持ちを一言で告げて、マキヤはベニの頭を優しく撫でてやる。その表情は柔らかなものだった。
祭の色が、チラチラと視界をかすめる。そこからは賑やかな声音も生まれていた。
柔らかい雪が降り続く街の中で、二人は今、優しさで包まれた幸福の時間を過ごしているのだった。