■リヴァイアサン大祭『ケーキよりも甘い時間』
リヴァイアサン大祭は1年に1度の特別な日。この日は数多くの催しが行われ、この日を楽しく過ごす。しかし、参加するだけが楽しむ方法ではない。それぞれが大切な人と過ごすことができれば、それこそが一番意味のある過ごし方かもしれない。
そして、ここにも祭りから抜け出して過ごす2つの影があった。
エリオンとフィルディアは共に住む家へと帰ってきて、一緒に過ごすことを選んだのである。
「ケーキ作ったぞ。エリオン、食べるだろ?」
コートを脱ぎ、一息ついたところでフィルディアがキッチンからケーキを持ってきた。
(「フィルは甘いものが苦手なのに……。僕の為だけになんだろうな」)
フィルディアの心遣いが嬉しくて、顔が自然と綻んでしまう。
「……仕方ないから食べてやる…」
素直にお礼は言えないけれど、本当は嬉しいんだって言うのはきっと伝わっていると思う。
ケーキを皿に乗せ、ソファーへと座ったフィルディアに、エリオンは少しだけ我儘を言いたくなった。素直になれないついでのようなものだ。
「……膝に乗っても、良いか?」
その言葉にフィルディアは驚いたように表情を変える。けれど、その表情はすぐに優しい笑みとなり頷いた。
「いいよ、おいで」
それにエリオンは嬉しくなって膝の上に座った。そっと寄りかかれば、背中に温かな体温を感じることができてとても心地よい。
そんな温かさに浸っていると、フィルディアがケーキをフォークで取ってエリオンの口元へ運ぶ。
「エリオン。あーん」
それくらい自分で出来ると、そう言いそうになる。けれどそれを必死に堪えた。
今日はリヴァイアサン大祭で特別な日なのだ。こんな日くらいは素直に過ごしたいと思うのはけして悪いことじゃないはずだ。
「……あーん」
頬を少しだけ赤く染めて口を開けてケーキを食べさせてもらう。すると口の中で甘い味が広がっていく。
「……おいしい」
自分好みの甘さに、ちゃんと理解してくれていると嬉しくなる。だから、少しだけお礼をしたいと感じた。
「……お礼」
「ん? ……ん」
お礼と称した短いキス。ケーキの甘い香りが互いの口に広がった。
来年もまたこうして2人で過ごせたらいいなとお互いに願い、どちらともなく再び唇を重ねる。
1年に1度きりの特別な日で、お互いの気持ちを改めて感じることができる日。
大切な人と一緒の時間を過ごしながら、ずっと続いてほしい温かな気持ちを抱くのだった。