■リヴァイアサン大祭『不意の「はじめて」』
エルフヘイムの空をリヴァイアサンが飛ぶ。空からは雪を降らせ、泉を温泉に変え、小川には甘い蜜を流して、暁の光を受けて透き通った輝きを放ちながら。
そうして空を舞うリヴァイアサンの姿を、シェナムとルヴァリスは二人で暖め合うように抱き合って雪の丘から見つめていた。
大事な人の温もりを感じながら雪と共に空を舞う水の星霊の姿を見つめていたシェナムの視界を、ふいにルヴァリスの顔が埋める。
そして、唇に感じる温かく柔らかな感触。
「……あ」
シェナムがそれがキスだと気付いたのは、二人の唇が離れてからのことだった。
「シェナム……大好き」
少し頬を赤くして優しく告げられるルヴァリスの言葉も、暖かな抱擁の温もりも意識の上から消し飛んだように、シェナムはルヴァリスの胸にしがみついて体を縮こまらせる。
額や頬へのキスは、二人にとっての日常になりつつあるくらいによくしているけれど……。
でも、唇を重ねたことはまだなかった。
「いやだった?」
心配そうに顔を覗き込むルヴァリスに、彼の腕の中で恥じ入りながらもシェナムはやっとの思いで小さく言葉を返す。
「いやでは、ありません……」
いやなわけはない。
誰よりも大切な人とのキスなのだから。
ただ、もう少し心構えができていたなら、もっと……。
(「もっと……心から受け止められたかと思って」)
知らずの内に自分の唇に指で触れ、シェナムは心の中でそっと呟く。
初めての唇へのキスはあまりにも突然すぎて、想い出に刻み込む余裕も無かった。
かろうじて唇に残る感触と温もりを、記憶の中から必死になって手繰り寄せようとするシェナム。
そんな彼女を見てルヴァリスは少し困ったように笑うと、シェナムをそっと抱き寄せて……。
「……ん……」
そして、もう一度二人の唇が重なり合う。
リヴァイアサンの舞う空の下で、シェナムはルヴァリスをしっかりと抱き寄せて2度目の口付けを受け止める。
その感触も、温もりも、その全てを全身全霊で享受しようと。
……なお、図らずも『もういちど』をせがんでしまったことに気づいたシェナムが再び羞恥に震えることになるのは、もう少し後の話。