■リヴァイアサン大祭『偽愛クラシック』
今宵はリヴァイアサン大祭で、柔らかく雪が舞い降る。そんな中、傘等の雨避けを一切持たない、同じくらいの背丈で、似たような細身の男が二人。当然、頭や肩、服のあちこちに白い雪が積もっている。
「雪の中で一日遊び通しとは、生まれて初めてかも知れない」
セインゴートが気怠そうに口を開いた。しかし、気怠げな口調ではあるが、どこか楽しげな雰囲気を纏っている。
「お陰で、つま先から死んだ感覚だ」
そんな事を言いつつも、ローロも楽しそう。
2人で、このリヴァイアサン大祭で行われる色々なイベントに顔を出し、遊び倒した。
「動いている時は気にならなかったが、いい加減に寒いね。店に行けば火も、身に被る物もある」
2人でセインゴートの店に着くと、ローロは雪が積もり、湿ってしまったジャケットを脱いだ。冷えすぎたせいか、感覚が麻痺してしまったらしく、暑いのか寒いのかさっぱり分からない。
セインゴートは暖炉に薪をくべ、室内の温度を上げると、ローロに布を放った。
「今、温かい物でも準備しよう」
セインゴートは、取り敢えずお湯を沸かそうとしたが、
「紅茶も珈琲も湯も要らん」
断ったローロは、勝手知ったる何とやらで、果汁飲料に手を伸ばす。
「……熱い」
ローロは素直に布にくるまってみたが、一言漏らして、布をセインゴートに返した。そして、適当な椅子をソファの向かいに引っ張り、腰を落ち着ける。
「……要らないか、寒くないかい?」
温かい飲み物も、毛布も要らないとなれば、いくら暖炉がある室内と言えど寒いだろう。
言いつつ、セインゴートは何本か瓶を抱えて、ソファに腰を落ち着けた。
「セインゴートは寒くないのか?」
彼もまた温かい飲み物を自分に淹れるでもなく、布も被っていない。手にしているのは酒の瓶。
「僕の場合の酒は、体が温まるので良いのだよ、うん」
「飲兵衛め」
ぼそりと呟いて、果汁飲料の瓶を開けて、瓶のまま喉に流し込む。
「併し、毎度商品候補を無銭で乾して良い物か……売るなら買うが」
ローロは手にした瓶を見て、次にセインゴートに視線を向けた。
「ああ、飲物は此処にわざわざ買いに来る人も無し。暇な時に来た客人に僕の戯言に付き合って貰う為の代価みたいなものだ。だから気にせずどうぞ」
微かに微笑むセインゴート。
「アンタが眠ったら宿に戻る。聢と布団に運ぶんで安心を」
ローロはそれに釣られて、軽く笑いながら瓶に口を付けて喉を潤わせる。
「早々眠らないので覚悟してくれ。それに、わざわざ寒い夜間に帰る事もあるまい? のんびりしていってくれ。ローロが先に寝てくれても構わないんだよ」
言いながら、手に持った酒の瓶に口を付けた。
(「愛らしい寝顔を見物する迄、眠る気は無い」)
(「遊びの次は耐久戦、か。負けるつもりはないよ」)
2人で他愛ない話をして、緩やかな空気が流れる。
果たして、耐久戦の軍配はどちらに上がったのか――。