■リヴァイアサン大祭『愛してる』
柔らかい雪が、そっと降り積もる深夜。人々が持つランタンの灯りと、時折そこから空へ昇る光が、純白の雪原を銀の輝きで彩る。今夜、空に姿を見せない星たちが、地上で舞い遊んでいるかのように。
静かな雪原を、さらに人気の少ない方へと歩いていく二人の手にも、淡い光がゆらめく真鍮のランタンが握られている。
ふと、立ち止まったニョロが隣のラルウァを見上げた。二人の視線が重なり、彼女の緑の瞳が、彼の藍の瞳をじっと見つめる。
ラルウァに伝えたい、数え切れないほどの想いの中から一番大切なものを選んで。ニョロは彼の手を取り、その掌に指で言葉を綴った。
私はラルウァが好き。ずっと一緒にいたい。愛してる。
想いが伝わるように、ゆっくりと丁寧に書かれた言葉。ニョロの指が止まると同時に、ラルウァは彼女を両腕で抱き寄せた。
「僕もニョロを愛してる。離さない。ずっと一緒にいよう」
ニョロから受け取った想いの分まで、はっきり声に出してラルウァが告げる。
二つのランタンから光があふれ、同時に解き放たれた雪蛍が寄り添うように空高く舞い上がった。
それは、一夜限りの儚い輝きに過ぎない。でも、互いを大切に想って交わされた言葉を受けて育った光は、本物の星のように煌いて美しかった。
輝く尾をひきながら、空に昇っていく二つの光を目で追っていたニョロの唇に、不意にラルウァの唇が重なる。空を見上げた瞳に愛しい人の姿を映して、ニョロの頬がほのかに赤く染まった。彼女が寒くないようにと、ラルウァはニョロを強く抱きしめて――自分の胸に密着した柔らかな感触にたじろぐ。
高鳴る鼓動が静まるのを待ってゆっくりと唇を離し、彼はニョロの耳元で囁いた。
「お家に帰ったら、もっと『愛してる』しようね?」
響く声は一つでも、そこにある想いは二つ。
それぞれの願いをのせた雪蛍は空に昇って星となり、これからも二人の上に輝くだろう。
この聖なる夜が終わっても、きっと。