■リヴァイアサン大祭『Contract 〜〜契約〜〜』
時節はちょうどリヴァイアサン大祭の夜。雪が舞う雪原。
そこに二つの人影があった。
一人は真っ白なロングドレスを纏った女性、名をエイカという。
もう一人は白のタキシードに身を包んだ男性で、名はジェイナスといった。
二人は勇者と騎士であり、大事なパートナーである。
そんな二人は今宵、とある儀式を行うためにこの雪が舞う雪原へとやってきたのだった。
雪原の中、騎士であるジェイナスはエイカの前にひざまずき、シルクハットを脇に抱えて頭を垂れている。
それに対し、勇者であるエイカは彼の前に立ち、腕輪をはめた右手を彼の額にかざしていた。
「本当にこれでいいの?」
今から彼らが行おうとしているのは、マスターとガーディアンの契約を交わす儀式。
しかし、エイカは不安を隠し切れずにジェイナスに尋ねる。
何しろ、この儀式は見よう見まねで行っているのだ。
これで正しいのかエイカは不安になる。ならない方がおかしいだろう。
「恥ずかしいから早くやれ」
だが、ジェイナスは姿勢を崩さず、目を伏せたままぶっきらぼうに答えた。
「……わかった」
その態度に観念したのか、エイカは姿勢を整えジェイナスの額に向けて腕輪をはめた右手を再度かざし直した。
「エイカ、繰り返せよ? 契約を交わす」
ジェイナスが『契約の言葉』をエイカに伝える。
「契約を交わす」
「忘れえぬ傷、眼前の盾を守護とし」
「忘れえぬ傷、眼前の盾を守護とし」
ジェイナスの言葉を復唱し、エイカは『契約の言葉』を紡いでいく。
「痛みを共有せん、とこしえに」
「痛みを――本当にこれでいいの?」
復唱を中断し、先ほどと『同じ言葉』で問い掛けるエイカ。
けれども、今度はその意味合いが違う。
本当に自分でいいのか?
今ならまだ止められる。
確かに今でもお互い大切なパートナーだ。しかし、この契約の儀式をしたら後戻りできなくなる。
だからこそ、本当に自分でいいのか?
儀式を行うまでは観念していたが、やはり言葉を紡ぐうちにその不安が大きくなり、そして、エイカの心に引っかかってしまったのだ。
しかし、勇者の問いに騎士は――。
「痛みを共有せん、とこしえに」
契約の最後の言葉を、再びエイカに告げる。
それは、彼の彼女の問いに対する答えでもあった。
しばらくの沈黙が二人の周りを支配する。
「……痛みを共有せん、とこしえに」
長い沈黙の後に紡がれた最後の言葉。それは決意の言葉。
それが最後まで紡がれた瞬間――エイカの右手の腕輪の宝石からきらりと輝く。
その、赤く暖かな光が二人を照らし、包み込むかのように、2人には感じられた。
驚き、眼を見開くジェイナス。それは二人がより強い絆で結ばれたという証なのかもしれない。
そんなジェイナスの姿を、エイカは微笑を浮かべ、少し照れくさそうに見つめていた。