■リヴァイアサン大祭『天華も羨む聖夜を貴方と』
1年に1度の特別な日。リヴァイアサン大祭の夜を2人は共に過ごしていた。大きなツリーに腰掛けたメルセデスとフェリクスは枝葉を飾っている雪の結晶を眺め、大切な時間を過ごす。
メルセデスは子供のように瞳を輝かせながら雪の結晶へと夢中になっていて、そんな様子をフェリクスは横目に見つつ、自身も雪の結晶の美しさを楽しんでいる。
ふと、風の悪戯だろうか。雪の結晶が1つメルセデスの髪へと舞い降りてきた。それに気付いたフェリクスは気負いのない動きでそれを取ろうとする。
だが、手が髪に触れるか触れないかの所でメルセデスの肩が大きく跳ね上がった。
「ちょ、なっ、何よ……!」
何でもない動作。けれど、いつもより近いその距離にメルセデスの心が揺れた。困惑なのか、それとも照れてしまったのか。本人にも分からない揺れ。
フェリクス気心の知れた大切な相手。けれど、何故だろうか。近い距離に心が整理できない自分に気がついて、動けず固まってしまった。
「あっ、いや……その……」
そしてフェリクスもそんなメルセデスに心を揺らされていた。先程まではお互い落ちついていた距離が近く感じる。
自分にとってメルセデスは色々と目が離せなくて、自分がついていないと心配な相手。いつもいつも、気にしてしまう相手。
ふとしたことでフェリクスは気付いた。自分の中で自覚した、メルセデスという1人の女性へと抱いた気持ち。今ならばそれを伝えることができるだろうか。
伸ばした手が少しだけ髪の先に触れ、雪の結晶を揺らす。
フェリクスの知るメルセデスは、嫌いな男に触られることをよしとする女ではない。今までの付き合いで、それはよく知っていた。だから、この触れた指先の意味を少しだけ……少しだけ信じてもいいだろうか。
目の前には頬を赤くしたメルセデスがいる。動くことなく、触れた指先を拒絶しない。受け入れ、フェリクスの動きを待っている。
そして、それを見て決意した。自分が伝えるべきことを。
普段とは違う、真面目な顔でフェリクスは口を開いた。自分の気持ちを伝えるために。
「メ、メル実はさ……俺お、おお、お前が……っ」
動揺した自分の声に意外を感じた。同時に、この気持ちは本物だと告げている。
それに鼓動は釣られて加速する。情けないとは思わない。むしろ彼女への気持ちの大きさを誇りに思う。
この早鐘は自分への祝福になってくれるだろうか?
告げた気持ちに、彼女はどんな表情をするのだろうか?
告げた言葉に、彼女はどんな返事をくれるのだろうか?
雪の結晶溢れる中で、彼は自分の言葉を紡ぐ。
そして、彼女の言葉は………。
そんな2人のことを、ただ静かに雪の結晶だけが見守っていた。