■リヴァイアサン大祭『サプライズ・アタック!』
寒空の下、マフラーも巻かずじっと人を待つのは堪えるものがあった。ポケットに手を突っ込んで身を縮めてみても、肌に伝わってくる寒気は容赦なかった。
もしこれで待ちぼうけでも食らったらさすがに恨むだろう。待ち人が他人であったらとうに踵を返していただろう。
だが相手が相手だけに、キリクは凍えながら待った。
あと三回くしゃみするか、五回鼻すすったらどこか暖を取りに行こう。さすがにそんなことをちらりと考え始めたころ、ようやく待ち人は現れた。
「お待たせしたっス!」
「おう、随分待っ、た……ぜ…?」
待ち人は赤かった。
いや、その肌は相変わらず透けるように白かったが、いや、そういう話ではなく。
待ち人、アリスは赤いドレスをまとって現れた。
「兄様の為に用意したんスよ!」
自慢するように胸を張る仕草に、思わず視線を奪われ、そして慌てて逸らす。どこに奪われ、どこから逸らしたのかはさておき。
雪の上にふわりと浮きあがるような赤い装い。たっぷりと布を使ったスカートがひらりと広がり、艶やかな長手袋がどことなく貴族めいた仕草を垣間見せた。白く縁取りしたケープの下からわずかに見える二の腕の眩しさに、思わず目を奪われる。
光を混ぜた蜂蜜色の頭を飾る帽子が、少しばかり子供らしさを演出するアクセントとなって、全体としての艶やかな印象と合わさりアンバランスな魅力を醸し出していた。
などと第三者からは落ち着いて評することができたが、当事者はただ、
「に、兄さんはそういう破廉恥な格好は感心しないな」
まあ可愛いデスケド? お年頃の娘がそういうのはどうカト? 兄さん決して嫌いじゃないデスケド? と狼狽えるばかりで冷静な評価に至らない。
思わず喉を鳴らしてしまうことだけは回避したような、そんな様子であるからして当然のこと視線も何も落ち着かない挙動不審そのもの。
そこに不意打ちで追い打ちがかかったのだからたまらない。
すっかり冷えてしまった頬にふにと押し付けられた柔らかな温度。ふわりと額に触れた髪先。
「リヴァイアサンプレゼントっス!」
慌てふためくキリクが何事か口にする前に、そう宣言する。この寒い中リンゴのように頬を染めて、照れ隠しのように早口に。
「………の、ノーカン」
「え」
「ノーカンだ!」
「ええーっ!?」
案の定、負けないくらいに頬を染め上げて、ぶっきらぼうに言い放つキリク。照れ隠しなのか顔に押し付けられたのは、きっとプレゼントに用意してくれていたのだろう帽子。思わず抱きしめるくらいに嬉しいけれど、それとこれとは別の話。
折角着飾って気恥ずかしい真似までしたのに、ノーカウントじゃあ勿体ない。絶対にきっちり認めさせなくては。
……それともカウントするまでしてほしいということ?
赤面しながら歩き去るキリク。弾んだ声で追いかけるアリス。
二人の声はどこまでも楽しげに続いて行った。
星々の見下ろす限り、どこまでも。