ステータス画面

ふたりのリヴァイアサン大祭

人外的思考のライアー・アンヘル
春宵のウィローサ・レネッテ

■リヴァイアサン大祭『いや寒いですって!』

 それは、一年に一度の奇跡の夜……『リヴァイアサン大祭』の夜の出来事。

 ひらり、はらり、と。粉雪降り舞う寒空の下、『水の星霊リヴァイアサン』の奇跡よろしく、蜜の流れる飴色の小川のほとりにて。
 漆黒の髪を持つ青年と、白色の髪を持つ少女が、それはもう熱烈に見つめ合っていた。
「アンヘル様のために作ったんですもの……食べて下さいますわよね?」
 桃色の瞳を爛々と輝かせて笑う少女――レネッテは、手に持つ硝子の器から氷菓子をスプーンですくい上げ、青年へと微笑みかける。
 透き通った硝子器の中にこんもりと盛られた白雪は、本日の奇跡の賜物である小川のシロップがたっぷりとかけられていて、さながら真夏に食べる氷菓子のようであり。
「それ冬に食うモン違うんじゃね……?」
 少女が笑顔と共に差し出すものに思わずツッコミをいれた青年――アンヘルは、目の前でそれはもう楽しげに微笑む少女を見て、苦笑を浮かべた。
 季節は冬。風が吹けば雪を舞わせる今宵も例外ではなく寒く、天使のような笑みを浮かべる少女だって、もこもこと暖かそうな服を着ているというのに。
 そんな寒さは素知らぬ風と、レネッテはアンヘルをじっと見つめて、冷たい氷を掬ったスプーンの照準を彼へと合わせ続ける。
 にこにこ。にこにこ。……そんな無言のにこにこの会話は暫く続いたものの、少女が淋しそうに瞳を伏せることで終わった。
「アンヘル様……」
 全身で『落ち込んでます』と言わんばかりにしょんぼりとした雰囲気を纏う少女は、淋しそうに氷にかかる蜜を舐める――けれども、けして氷は食べずに。
「……ま、食うけどね」
 そんな少女の様子に、惚れた弱みか諦めたのか、自分から騙されることを決めた元詐欺師は、爽やかな笑みを浮かべて、結局口を開いてみせた。
 それを見た少女は、ぱっと花のような笑みを満面に浮かべると、再び青年へとスプーンを向けて、青年へと身を寄せる。
「はい、あーん♪」
「あー……、てっ、さっむっ!」
 少女が青年へとあーんをするべく距離を縮めれば、青年もあーんをするべく距離を縮めて。ぱくり。青年が氷菓子の一口を頬張り。
 すぐさまその冷たさに青年が身を震わせて声をあげると、少女は楽しそうにくすくすと笑みを溢す。
 互いに縮んだ距離は、手を伸ばせばきっと、触れられる距離。間近な距離にて少女の笑みを見た青年は、溜息一つこぼして。
 けれどもそんな青年の表情がどこか優しげな苦笑であれば、少女もまた春の陽光のような、柔らかな笑みを浮かべる。
 そうして訪れた沈黙は、ともすれば絶妙なタイミングだろうか。奇跡の夜に二人きり、なんてロマンティックナイトを猫も杓子も演出して……しかし、だがしかし。
 告白するか、しまいか。そんな一世一代の大舞台のタイミングを窺う青年を見守るのは、きらきらと降る粉雪。

 深まる絆と縮む距離と、未来の足音と。二人が迎える優しい『いつか』は、きっとあと、もう少し。
イラストレーター名:七味