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ふたりのリヴァイアサン大祭

庭園の守り人・バジル
深遠なる赤・ユリーエ

■リヴァイアサン大祭『二人で歩く白銀の世界』

 オレンジの夕焼けの先には淡いピンクの雲。そして、その先には優しい紫の宵闇が広がっている。その中を温かな家明かりが辺りをちらちらと照らしていた。
 バジルとユーリエはその光景を遠く眺めた。街はリヴァイアサン大祭のにぎやかな明かりに彩られているが、二人の立つ場所は無彩色とも言える雪の上。ブーツのつま先はとうに冷え切っている。
 でも……。
 バジルは不意に微笑んだ。
 隣にはユーリエがいる。そう思うと、ふと、柔らかな笑みが浮かんでくる。
 バジルとユリーエも、互いにもっと仲良くなれたらいいと思い、二人きりで自然の中を散策しようとやって来たのだった。
 色を失った雪の上は、夜の色を吸いこんで蒼く輝いている。こんなにも冴え冴えとしているのに、温かく感じさせる雪の色は不思議だ。
 二人の心に沁みる色は、きっとリヴァイアサン大祭の恵みなのかもしれない。
 粉雪を積もらせた木々の幹はずっしりと重そうで、影になった葉の下は闇の色だ。でも、それもすべて温かい感じがした。
(「きっと、ユリィさんがいるから……」)
 また、バジルは微笑んだ。
(「さあ、淹れたての紅茶を分け合いましょう」)
「ユリィさん、寒くないですか? 温かい紅茶を水筒に入れておきましたから、そこのベンチに座って一杯どうですか?」
「え?」
 蕩けるような時間に溶け合っていたユーリエは、バジルの声を聞き、現実に引き戻された。でも、現実も夢のよう……。
「さあ、どうぞ」
 バジルはベンチに向かい、雪を払い落してベンチを勧めた。ユーリエは丁寧に礼を言って座る。
「あ、どうもありがとうございます」
「どうもいたしまして」
 バジルも礼を返して隣に座った。
 冷えないように工夫した水筒を開け、バジルはカップに紅茶を入れるとユーリエに差し出す。
「わぁ……とても温まります」
 手袋の上からでも温かさが沁みてくる。ユーリエはほっこりとした笑みを浮かべた。
 物静かな眼差しの奥には、情熱の光が灯っている。たなびく紅石色の髪はそんな彼女にピッタリで、同じ色のマフラーも似合っていた。
 一面の銀世界に、眩しい紅の光。公園のベンチに二人だけの優しい時間。
 雪はスカートを翻す少女のように、ちらりちらりと軽やかに宙から舞い降りる。二人は飽かず眺めた。
「星霊リヴァイアサンですか……とても神秘的ですね」
 バジルがぽつり、呟いた。
 バジルもユリーエも、星霊術士。星霊に関しては、やはり興味がある。
 二人は星霊を想った。
 大祭には雪が降り、温泉が湧き、小川に甘い蜜が流れる。今の二人には、このように幸せな時間が流れていた。
「あ……雪が降ってきましたね……綺麗ですよ」
「本当に綺麗ですね……この時間がこれからもずっと続けば良いのですけど」
 二人は立ち上がり、しんと美しい沈黙を守る雪の中をどこともなく歩き、聖なる沈黙に身を委ねていた。
イラストレーター名:水名羽海