■リヴァイアサン大祭『飛泉の湯 〜互いの温もりを感じて〜』
満天の星空の海を優雅に泳ぐのは、水の星霊リヴァイアサン。一見幻想的なように見えるその光景。だがその恩恵は、確かに存在していた。
とある恋人達が訪れているほっこりと湯気が立ち上る温泉も、そのひとつだ。
こちり。
二つの杯が触れあう音。椿の花弁が一欠片、乾杯の余韻に揺れている。
温泉に浸かりながら幸せそうに杯を傾けているのは、レイラとティルナだ。
――二人の想いが通じあったのは、ほんの数日前のこと。
互いにお酌をし、他愛のない話をする。恋人同士になった二人にとって、そんな時間は幸せに満ちていた。もちろん一緒にいるだけでどんな時間も心地良いものなのだけれど。
しかし飽くことなく続くかに思われた会話もぽつり、ぽつりと減っていき、やがて訪れたのは静かな時間。
そんな穏やかな雰囲気の中、話が途切れたのを見計らったようにレイラがゆっくりと口を開いた。
きっと顔が赤いのはお酒のせいだ、と自分に言い聞かせて。
「今日はありがとうございました」
まずは今日の日の感謝を告げる。そして、ティルナの腕に自らその身を寄せた。
「……これからもよろしくお願いしますね」
これから。それは未来を差す言葉だ。その言葉に目を細めたティルナもまた、こちらこそありがとう、と礼を言う。
「これからのことを考えると、とても嬉しくなるわ」
そう微笑むティルナに安堵するレイラ。と、その背に細い腕が回った。ふんわりと、温かい腕だ。
大切な宝物を包むように、ティルナは優しくレイラを抱きしめる。
自然と触れた華奢な身体から、彼女の熱が伝わって来た。
あの日、想いを告げて良かった。ティルナは心からそう思う。
――こんな風にいつまでも一緒にいられますように。
そっと天に捧げたのは、小さな、そして何より大事な願い。
だが、考えてみればリヴァイアサンは願いを叶える星霊だったろうか? ……いや、違っただろう。
「どうかしましたか……?」
見れば、レイラが不思議そうに自分を覗き込んでいて、ティルナは自分が笑みを浮かべていた事に漸く気づいた。
けれど愛しい恋人が小首を傾げる仕草に、また微笑がこぼれる。ティルナは緩やかに首を振ると、レイラの耳にその唇を近づける。
耳元で微かに震えた空気に、レイラは紫眼を見開く。
「大好き……愛してるわ」
ティルナが囁いた声は何よりも甘い。熱い眼差しも愛情に満ちた口元も、全てが今はレイラにだけ捧げられるものだ。
それを真っ直ぐに受け止めたレイラの顔が、耳が熱く感じられたのは、湯にあてられただけではないだろう。
火照った顔をどうする事も出来ずに、返すべき言葉の端を探すレイラ。
その唇に、ゆっくりとティルナの唇が寄せられ――。
吹いたのは、風。
ふわりと広がった湯煙は、寄り添う恋人達を守るようにそっと包み込んだ。
誰からも邪魔されることなく。
……どうか、今は二人だけの時間を過ごせますように。