■リヴァイアサン大祭『ふたり』
今日はリヴァイアサン大祭――。街ではたくさんの人々が、祭りを楽しんでいる。
そんな日でもアルスラミネアは一人、街から少し離れた場所で祭りの様子を眺めて過ごしていた。
リヴァイアサン大祭だからといって、アルスラミネアには誰かと過ごすという考えはない。
(「賑やかな空気の中に居れるから」)
アルスラミネアは祭りを見るだけで、彼女なりにリヴァイアサン大祭を楽しんでいるのだ。今も、出店の様子が楽しくて、アルスラミネアは微笑んでいた。
「うふふ……」
カップルでじゃれ合う二人組が見える。女の子が男の子を振り回していた。それが実に面白い。やがて、その二人組が去っていき、アルスラミネアは新たな対象を見つけて人間観察を続ける。しっとりと祭りを眺めるその姿は、達観して大人びた女性にも見えた。
そこへ、ふと彼女は自分の近くに人影が近づいていたことに気づく。
「クローナさん……」
それは、今年になって出来た友達、クローナである。クローナはアルスラミネアが座っている近くの塀の上に飛び降りてきた。彼女は無理をしていたのか、思いっきり血を吐く。
「うわっ!」
アルスラミネアがその様子に驚き、身を引いた。クローナは事あるごとに吐血するのは知っていたが、それでもそれを間近で見せられると心底ビックリさせられる。
クローナは驚くアルスラミネアをよそに、何事もなくハンカチで血を拭き取った。そして、クローナが手に持っていた2本のりんご飴の片方を、アルスラミネアへと差し出した。
「……はい」
「あ、ありがとう」
アルスラミネアはそのりんご飴を手に取った。クローナはそのまま彼女の脇を指差す。
「一緒に食べたいの? いいよ、食べよ」
クローナはこくりと頷き、アルスラミネアの隣へと座った。
「えっとね、あそこの出店にね……」
アルスラミネアは先程までとは打って変わり、子供のように無邪気にはしゃぐ。りんご飴を頬張り、先程まで見ていた出店やら、人間ウオッチングの様子やらをとめどなく語り続ける。
一方、クローナはアルスラミネアの話に相槌を打つ。こくり、こくりとただ、友人の話を聞きに徹し、時おり微笑む。意識せずに振舞う、その様子は実に自然体である。それが彼女の地なのだろう。
人知れず、リヴァイアサン大祭の一夜を過ごす、アルスラミネアとクローナ。アルスラミネアは友人と過ごす初めての祭りを心いくまで語って過ごそうと考える。そして、クローナは友人のそんな思いをただただ、受け止めてあげようと決めたのだった。