■リヴァイアサン大祭『敗者の末路』
濃紺の空を朝焼けの色に染めながら、太陽がゆっくりと昇っていく。地上が淡い輝きに包まれ、人にとって希望に満ち溢れた朝が訪れた――はずなのだが。何事にも、例外は存在するものである。
雪積もる丘の上、累々と倒れ伏した人の群れ。白一色だったはずの大地は、あちこちが無残に赤く染まっている。主に潰れたトマトで。
そんな地獄絵図の中、仲良く並んだ雪だるまが二つ……いや、二人。
「俺たちは何を残せたんだろう。敗北した時点で何も残らないというのに――」
眼鏡をかけた雪だるま、シンヤが遠い目をして言う。それに答えるのは、白い長髪がのぞく雪だるま――ダガーだ。
「いいや、我々の敗北は彼らの勝利とはなりまセン。策を弄し仕掛けを施し、結果として一度きりの反撃を成功させたのデスから」
励ますような、力強いダガーの言葉。雪だるまに埋められて手も足も出ない状態でなければ、それなりに決まっていたかもしれない。
「そうだな、テオに一泡吹かせてやったんだから良しとするか……」
昨夜の戦果を思い返し、シンヤの黒い瞳に少しだけ力が戻る。えぇ、と頷くダガー。
直後、二人の方へと冷たい風が吹いた。
「それにしても寒いデス……誰か、助けてくれると嬉しいのデスが……」
もともと白いダガーの肌は、色白を通り越してもはや蒼白に近い。限られた視界の中、助けの手を探して視線を動かす彼に向けて、諦めたようなシンヤの声が届く。
「難しいだろう。もうここには敗者しかいない、勝者はすでにいないのだから」
そして、他の敗者はといえば――この大地に死屍累々と折り重なっているというわけである。早く目を覚まさないと風邪をひきかねないが、人の心配をする余裕は今の二人にはない。
「あぁ、私達も鍋を囲んで勝利の宴に参加したかったデス……」
「言うな、空しくなる」
敗者として雪だるまにされた身で、勝利の宴を想像するほど悲しいことはない。
欲しいものを得られるのは、常に勝者だけなのである。
「――我が生涯に一片の悔い無し、じゃなかったのデスか?」
「長々と用意した台詞を最後まで言わせてもらえなかった奴が、それを言うか」
ふと思い出したようなダガーの言葉に、痛烈に反撃するシンヤ。
ちなみに、彼らが言っているのは、先の勝負で沈められた際の一言――いわゆる『負け台詞』についてである。
「はぁ、お腹が空きましたネェ……」
そして、ダガーはまったく人の話を聞いちゃいなかった。
雪だるま達は朝日を浴びて、いつ来るとも知れない助けを待っている。
敗者の運命とは、つくづく無情なものである――。