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ふたりのリヴァイアサン大祭

蒼嵐の・ブランシェル
気まぐれタルトレット・シラユキ

■リヴァイアサン大祭『病名:らぶらぶ』

 風邪。
 ブランシェルは今、風邪にかかっていた。ここ数日の間、彼は多忙で身体を休める暇が無かったのだ。
 リヴァイアサン大祭ではあるが、行けるわけがない。
「ブラン、様子はどう? あとでリンゴ持ってくね」
 幸い、彼には看病してくれる者がいた。その人物は今宵の祭りに行く予定だったため、めかした姿をしている。
「……ユキ、俺はいいから、祭りを楽しんでこいよ」
 ブランシェルは、シラユキに……自分を看病してくれる彼に、言葉をかけた。
「駄目。今の俺には、コッチの方が祭りよりも大切だし、楽しいし。そ、それに……」
 シラユキの語尾が、徐々に小さくなっていく。
「それに……ブランがいないと……何処に居たって……楽しめないもん……」
 そこまで言うと、彼は恥ずかしそうにうつむいた。
「そ、そうか。……すまないな。俺も、一人だと不安だし……」
 ブランシェルは聞いた。いつもと違う、弱気な言葉が自らの口から出るのを。

「はい、あーん。おいしい?」
 シラユキが作った粥を、ブランシェルは食べさせてもらう。
「ん……ああ、うまいよ」
 美味いだけでなく、熱いため、汗が出る。食べ終わる頃には、ブランシェルは汗まみれになっていた。
「じゃあ、次は身体を拭いてあげるね」
「ああ……って、ええっ!?」
 間髪入れず布団がはがされ、パジャマの上半身が脱がされた。
 暖かいタオルが、ブランシェルの肉体を、熱に浮かされた彼の肌を拭いていく。その心地よさに、彼の口から吐息がもれた。
「……弱ってるブラン、なんだか……かわいい……」
 そう言って、口づけするシラユキ。自分の体温が、更に上昇するのをブランシェルは知った。

 身体が、熱い。
 なぜなら、シラユキが添い寝しているからだ。彼は今、ブランシェルとともに横になり、一緒に布団に包まっている。
 しばらく経って眠ろうとした時。シラユキは「暖めるため!」と豪語し、そのまま半ば強引に添い寝してくれたのだ。
 ……もっとも、ちょっとした問題が起こってしまったが、シラユキはそれすら嬉しそうだ。
「えへへ、俺にも風邪、移っちゃった」
 確かに、身体は暖まった。けれどこれ以上は、別の熱でのぼせてしまいそう。
「……これは?」
 ふと、ブランシェルはシラユキの指先に注目した。
 傷があった。貼られた絆創膏からは、血が滲んでいる。
「ああ、さっきリンゴ剥いた時に、切っちゃって……って、ええっ?」
 今度は、シラユキが声を出す。その指を、ブランシェルは口元に運び……傷にぺろりと舌を這わせたのだ。
「……痛かったろ? けど、これで傷みは取れた、よな?」
「……うん……ありがと……」
「礼を言うのは、こっちのほうさ……」
 祭りを蹴って看病してくれた事に対する、ちょっとしたお礼。
 早く、治しちまわないとな。そして、ちゃんと礼しないと。
「……ありがとうな、ユキ……」
 小さな呟きとともに、ブランシェルは暖かさの中、眠りに落ちていった。
イラストレーター名:乙部はるきち