■リヴァイアサン大祭『窓辺にて−雪灯りの下−』
酒のグラスに入った氷が、カランという音を立てる。それを隣に立っているシュナイゼへ手渡しつつ、ジョンは宿屋の窓から外を見た。遠くに、町の灯が見えた。それとともに、祭りの光が夜を彩っている。が、今夜いっぱいでその彩りは消える。
二人が出かけた、リヴァイアサン大祭。今年の祭りは、今夜で終わるのだ。
「祭りも、もう終わっちまうな」
グラスを傾け、ジョンは窓の外に、そして隣のシュナイゼへと視線を向けた。
手渡されたグラスを片手に、シュナイゼは窓の縁へ寄りかかっていた。ジョンと同じく、静かにグラスに口をつけ、傾けている。
窓の近くに置かれたランプの灯火が、彼女の、シュナイゼの顔を照らし出していた。
「ええ。終わるわね」
シュナイゼのグラスから、ふたたび「カラン」という音が響いた。町の明りと、ランプの光。それらに彩られ、部屋の中には穏やかな空気が漂っている。
静寂。
それが、二人の間に流れた。
静けさは、改めて互いの存在を際立たせる。ジョンは改めて、目前の女性を、シュナイゼを意識した。紫の瞳と赤茶色の髪が、ジョンの視界に入ってくる。
「もう、一年か」
静寂にどこか耐え切れなくなり、ジョンはごまかすように言葉を放った。
もう一年。そして、まだ一年。
二人が出会い、こうやって共に過ごすようになって、一年。長かったようで短く、短いようで長く感じる、奇妙な感覚をジョンは覚えていた。
町の明かりも、祭りの灯りも消えつつある。ランプの灯が、シュナイゼを夜の闇中に際立たせていた。
「……ねえ」
シュナイゼが、今度は静寂を破る。
「……好き、だよ………」
コトリと、シュナイゼのグラスが窓辺に置かれた。そして、彼女が静かに歩み寄るのをジョンは見た。
唇に、優しい感触。そして、シュナイゼの匂いとぬくもりが、そこから伝わってくる。
「……いつも、ありがとう……」
すぐに離れ、彼女はうつむき、視線をジョンから外す。
暗くて良く見えないが、ジョンには分かった。彼女が、どんな表情をしているかを。
「……シュナイゼ」
ジョンもまたグラスを置き、彼女へと近づいた。その髪へと手を伸ばし、優しく愛撫しつつ、……シュナイゼの唇へと、自分の唇を重ねた。
長く短い一瞬。口づけを終えたジョンは、窓へと視線をやった。頬が熱く、鼓動が早まる。切ないような、恥ずかしいような、照れくさい感情が胸いっぱいに広がっているのがわかった。
「あー、……その、なんだ」
時間をかけ、ジョンは、己の想いを口にした。
「……これからも、その……よろしく、な?」
頬の熱さが、さらに増した。おそらく自分は、シュナイゼと同じ表情になっている事だろう。
「……うん、よろしく。ジョン……」
シュナイゼが、自分の腕の中に入り込む。
その言葉に、優しく抱きしめる事でジョンは答えた。
ランプの優しい光が、穏やかな闇の中。二人の口づけを交わす様を、静かに見守っていた。