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ふたりのリヴァイアサン大祭

宵闇の月を抱く駒鳥・ムルムクス
奇跡を願う雪の青薔薇・クーネラリア

■リヴァイアサン大祭『蒼薔薇姫へ、優しさのプレゼント』

 リヴァイアサン大祭の夜。
 町は歌と喧噪にあふれ、星空にはリヴァイアサンが舞っている。
 ムルクルスたちが部屋を取っている宿でも、ささやかなパーティーが開催された。いまは片付けも終わり、いつもと変わらない夜の時間が訪れている。
 ヒナオリ家の幼き当主――クーネラリア・ヒナオリは、自室に戻って穏やかな寝息を立てていた。年端も行かない少女。しかし両親が不幸な事故死を遂げたことで、いまは彼女が、当主としての役目を背負っている。
 ムルムクスは、親代わりをしながら彼女を陰で支えている。彼は、クーネラリアの両親とも面識があった。特に彼女の母親に対し、彼は恋心を抱いていた。
 クーネラリアにも、どこか母親の面影を思わせるところがある。だからムルクルスにとって、クーネラリアの存在は、単に『親代わりをしている少女』というだけでは言い切れないところもあった。
 クーネラリアは、そんな事情を知らない。クーネラリアは親代わりであるムルムクスに全幅の信頼を寄せているし、ムルムクスも、そんな彼女の信頼に応えていた。
 今夜、ムルクルスは年に1度の大仕事をしなければならない。
 足音を立てないように、クーネラリアの部屋に近付く。
 静かにドアを開け、そっと、部屋に入った。
 その手に持っているのは、可愛らしい包みに入ったプレゼント。
 リヴァイアサン大祭の夜、枕元にプレゼントを置く――それはクーネラリアの両親が、毎年、彼女のためにしてあげていたこと。いま、その代わりをするのはムルクルスだ。
 もちろん、ムルクルスがプレゼントを置いたことをクーネラリアに知ってもらう必要はない。今夜だけ、彼女のために両親が帰ってきてくれた……そんな奇跡を信じてもらえれば、それで何よりだ。
「私では、代わりにはなれないかもしれないが……君が、これからも健やかに過せることを願っているよ」
 親が子供にするように、クーネラリアの頬に、そっとキスをする。
 その表情は穏やかで、とても優しいものだった。
イラストレーター名:床