■リヴァイアサン大祭『嫉妬団の悲劇〜力量を量れぬ者の末路…?〜』
リヴァイアサン大祭に沸く街角には、幾人ものパートナー達が共に祈りを捧げていた。シルフィアとインジクトも、丁度休暇の日である。今日は二人とも武器を置いて、ゆっくりと羽を伸ばすつもりで来ていた。「ふぅ」
シルフィアの小さな口から僅かに吐き出された吐息が、白くなって煙る。その手には、出店で手に入れたハードカバーの本がしっかりと抱えられていた。
「やれやれ、とんだ事になりましたね」
「本当に」
彼女と背中合わせになり構えを取るインジクト。シルフィアが彼に悪態をつくのにも理由がある。二人がいるのは、飾りつけのある表通りでも、演劇の舞台でもない。
そこは、戦場だった。周囲に倒れ伏すのは大量の嫉妬団達。イベントを楽しんでいた所を、祭の趣旨を勘違いしたラブラブカップルと勘違いして絡まれたのだから、二人にとっては災難である。しかも大量の奴らが一気に押し寄せてきたのだ。しかし。
「やれやれ、ようやく減ってきましたか」
飛び掛ってきた奴を拳で殴りつけてから、肩をすくめるインジクト。手元に武器の無い者などと甘く見ていた嫉妬団達だったが、いつの間にかその数を大きく減少させていた。立っている者の数は、倒れている者の四分の一しかいない。二人の強さに旋律する嫉妬団達。
「馬鹿な、奴らは武器を持っていないのだぞ!」
ガツッ! 悲鳴をあげた嫉妬団Vの頭部から、とても痛い音がした。その額には、めり込むほどの勢いで、本の背が叩きつけられていた。
「なるほど、お前達の判断は正しい。だが、こちらの戦力を把握する前に行動を起こすべきではなかったな」
そのまま関節部などの人体急所を殴打され、大地に倒れ伏す嫉妬団V。その背後では、嫉妬団Wが、足元に突き出された足に引っかかりつんのめる。そのまま腕を掴まれて、遠くへと投げ飛ばされていった。
「ハッ。その程度で私達にかかってくるなどとは」
投げ飛ばした奴を放置し、インジクトはパートナーの背後から迫ろうとしていた嫉妬団達を、射るような冷徹な瞳で見据えた。シルフィアも、蔑んだ瞳を向ける。
「ふん……クズどもが」
『駄目だこいつらやっぱり怖い』と膝が震え始めた嫉妬団。しかし、最初に倒された者達がまた、意識を取り戻し始めた。
「潮時ですか……では、そろそろ?」
インジクトはぽつりと呟いた。そして、シルフィアに合図を送る。チっと舌打ちし、踏み込もうとしていた足を下げた。
「ふん、命拾いしたな」
吐き捨てるように言葉を残し、回れ右をしてその場を立ち去る。嫉妬団達に追いかける余力は残っていなかった。
「災難だったわ」
はあとため息をつくシルフィアに、インジクトが微笑み返す。
「ちょっとしたトラブルも、スパイスだと思えばいいんですよ」
「懐が広いんだかなんなのだか……」
こうして、二人はまた、祭の輪の中に戻っていく。後に残された奴らは……まあ、どうでもいいか。