■リヴァイアサン大祭『変わらない絆を』
「ヘレネ、少し良いかな?」「何でしょう?」
それは12月24日の夕暮れ時のこと。
年に1度のリヴァイアサン大祭の日を迎え、町は喧噪と音楽にあふれていた。
「……今夜、一緒に星を見に行かない?」
ジェーンは、ヘレネの目をまっすぐ見つめて問いかける。今日は特別な日。いつもと違う様子のジェーンを見て、ヘレネもその言葉の意味を理解したのかもしれない。
長い沈黙が続く。
雑踏の中、2人のいる場所だけ時間が止まったかのようだった。
「……ええ、ご一緒するわ」
目を伏せたまま、ジェーンの誘いに応じるヘレネ。
やがて夜の帳が下りた頃、2人は小高い丘に到着した。
満天の星空を背景に、雪が降り続いている。
「気持ちのいい場所ね」
ヘレネは楽しそうに、白い息を吐きながら両手を広げた。
「今夜はここで、ヘレネと過ごしたかったんだ」
ジェーンは荷物を降ろすと、中から薪や簡単な作りの椅子を取り出した。
「さあ、座って」
その言葉に甘え、ヘレネが椅子に腰掛ける。少し遅れて、焚き火の用意を終えたジェーンもその隣に座った。
ぱちぱちと、焚き火から弾けるような音がする。
遠くに見える町からは、かすかに音楽と歌声が聞こえてきた。
「……ヘレネ」
「……はい」
「この前からずっと考えてたんだよ……。ヘレネがガーディアンになってくれたらなぁって」
一言ずつゆっくりと、紡ぎ出すように自分の気持ちを語るジェーン。
ヘレネは、そんな彼女を優しく見つめていた。
「勿論ヘレネの都合次第なんだけど、私のガーディアンになってくれませんか?」
「はい……。あなたを、お守りします」
微笑むヘレネの顔が、少しずつにじんでいく。
ジェーンはその目に浮かんだ涙を悟られないようにそっと拭い、微笑みを返した。
「嬉しい……。私のただ一人のガーディアン……」
「私も、嬉しいわ。私だけのマスターだもの」
2つの影が、寄り添って1つになる。
ジェーンは「冷えると悪いからね」と言うと、毛布を取り出してヘレネと自分を包むようにした。
「ジェーン、ちょっとごめんね」
ヘレネがジェーンの肩越しに手を回すと、ジェーンの肩に毛布を掛け直す。ヘレネに気を遣うあまり、ジェーンは自分の肩から毛布が落ちていることに気付かなかったのだ。
「あっ……ごめん」
「ううん、気にしなくていいのよ」
1つの毛布に包まって寄り添う2人。
ホットココアを1つのカップに入れ、それを2人で分け合って飲む。体が温かいのはココアのせいか、それとも互いの温もりを感じ合えているからだろうか。
共に見つめる先には、満天の星空を舞台にリヴァイアサンが舞っている。
2人の間に生まれた、新しい絆を祝福するかのように。