■リヴァイアサン大祭『*〜 Happy Time 〜*』
雪の降りしきるハニーバザールに小柄な少女の影が二つ。彼女たちはとある約束を果たすためこの地に訪れていた。約束。それはズバリ、『甘いものをたくさん食べること』。
「いっぱい買って、2人でしあわせいっぱいになろうね」
「はい! 今日はいっぱい幸せになりましょうね!」
初めてのリヴァイアサン大祭に胸を躍らせるリュクレールと店頭に並ぶ菓子に意気込むエスティアは、仲睦まじく手を繋ぎながら人ごみに飛び込んでいった。
りんご飴やピーチパイ、プリンと山盛りのキャラメルポップコーン。甘い誘惑に目を輝かせ、目についた物を片っ端から手に取っていく。
「あれもいいし、これもいいな……あ」
ふと、ハニークッキーを片手に買い物をしていたリュクレールの手が止まっる。見れば、持参したバスケットの中が買い集めた菓子で溢れかえっていた。
「バスケット、いっぱいになっちゃいました」
そう言って恥ずかしそうにはにかみながら首を竦める。
「なら、私のトートバッグを使えば……って、あれれ? パンパンに膨らんでる!?」
蜂蜜を固めたキャンディーバーから口を離してバッグを差し出したエスティアの目が真ん丸く見開かれた。買い物に夢中になっていたせいか、バッグはいつの間にか満杯になっている。似たり寄ったりの状況に二人は顔を見合わせて笑った。
「少し休憩しましょうか、お店も見て回ったし」
買い物を始めて既に一時間は経過している。エスティアの提案にリュクレールは快く頷き、空いているベンチを見つけて腰かけた。
「寒いけど楽しいね」
「そうですね! 寒さなんてふっ飛んじゃいます!」
疲れた足を休ませながら互いに白い息を吐く。
何かを思い詰めたように、バスケットを大事そうに抱えるリュクレールの表情が僅かに強張った。
「あのね、エティさんと一緒だとね、いつもすごくすごく楽しいの」
「はい……えっ!?」
思いがけない言葉に驚いたエスティアは、くすぐったげに笑って手に持っていたキャンディーの棒を意味も無くくるくると回した。
「私も、リュイさんと一緒に遊べて本当に嬉しいです!」
その言葉にほんの少し笑ったリュクレールは、瞳に何か切実な色を湛えながら相手を見つめた。躊躇して、そしてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……だからね、これからも仲良しさんでいてくれる?」
一瞬、エスティアはきょとんとした表情を浮かべた。そして唐突に立ち上がり、強い視線でリュクレールを射抜く。
「何を言ってるんですっ! これからもずーっと、仲良しですよっ!」
ムキになって言い返し、満面の笑みと共に手を差し出した。
嘘偽りの無い真っ直ぐな彼女の言葉に緊張の糸が解けたのか、リュクレールはふんわりと笑みを浮かべた。握手を交わし、その手を離さないまま二人は再びハニーバザールへ繰り出していく。
二人の幸せな時間は、まだ始まったばかり。