■リヴァイアサン大祭『Leviathan in Winter Wonderland』
ダイヤモンドを散りばめたような星空の中ほどを、巨大な星霊が光の筋を残しながら泳いで行く。日頃の戦いを忘れ、誰もが不思議な銀世界に身を委ねる今日は、リヴァイアサン大祭。降り積もる雪に覆われた丘――或いは、エルフヘイムという大樹の梢と表すべきだろうか? 一面を雪に染め上げられた世界の真っ只中で、ダリスは感嘆の声を漏らした。
「でかいでかい、こりゃまたすごい眺めだな……」
「そうだなダリス」
自身の膝を枕に寝転ぶ男の黒髪を撫でて、カルディノもまた、しっとりと深い闇色の星間に目を移す。
夜明け前の空を悠々と行く星霊リヴァイアサンの姿を少しでも間近に見ようと、この丘に集まったエンドブレイカーは少なくない。その賑わいは、やや距離をおいて座したカルディノ達の元へも届くほどだ。風が運ぶ声を遠くに聞きながら、男女はそれぞれに双眸を細める。
「……カルディノ?」
「………」
名を呼ぶダリスの声は、聞こえたのか。絶えずちらちらと舞い落ちる雪を、カルディノが一心に見上げるのには理由がある。リヴァイアサンが目を引くのは勿論だが、本当の問題はそこではなく――。
ふと視線を下へ向けると、ダリスの赤茶の瞳がじっとこちらを見詰めていた。素早く上空へと目を戻したが、その頬は微かに赤らんでいる。幼い少女のような初々しい仕種に、ダリスは笑い、髪を梳く指に手を重ねた。繋ぎ返す手を絡めれば、真冬の寒さにも関わらずカルディノの顔は熱を帯びる。
「中々の眺めだ……」
それでもなお照れた様子を隠し通そうと、赤髪の女剣士は聖夜の眺望を讃えた。
「雪とも合う光景だ」
「うむ……」
遥かな星光輝く視界の端を、リヴァイアサンが通り抜けてゆく。後に残った愛しい顔を見上げながら、ダリスは、やはりいい眺めだと思った。
「別の意味での眺めも最高だしな」
「別の意味って……?」
含みありげに見詰めてくる瞳の示す所をはたと理解し、カルディノの頬が更に紅潮する。
「全く、お前は……」
ぼやきながら荷物を漁り、カルディノは手作りのサンドイッチを差し出した。もとより二人で食べようと用意してあったものだが、このタイミングで出したのはただ――思わず零れた微笑みを、誤魔化したかったから。しかし、それを美味いと言って頬張るダリスを前にすれば、せっかく誤魔化した微笑みが、何度でも繰り返し溢れてくるのだった。
(「来年も一緒に……いや、これからもずっと」)
心密かに囁き、カルディノは再び空を仰いだ。
永遠の森に生きる全ての生命を慈しみ祝福するように、大いなる星霊の軌跡が星空に細く、長い尾を引いていた。