■リヴァイアサン大祭『寄り添う星と月』
寒風が吹く一夜。それでも光に満ちた、暖かい場所は存在する。「雪蛍、とても綺麗でしたね……」
「ああ、とても綺麗だったな」
「また、どこかにお出かけしましょうね。エルさん」
「ああ、もちろん」
ルナの言葉に、エルシュヴァルツ……エルは相槌をうつ。
「そういえば、覚えています?」
「ん? ……ああ、覚えているよ。あれは、俺が確か……」
エルが語るのを聞きながら、ルナは頷き、微笑み、彼の顔を見つめていた。
今宵は、リヴァイアサン大祭。ルナは、エルに誘われ、祭見物に趣いた。
愉快な時を存分に過ごし……二人は部屋に戻っていた。祭は楽しかったが、それ以上にルナは、胸の高鳴りを、胸の思いを感じていた。
部屋には優しい光が満ち、暖房が外の寒気を和らげ、心地よい柔かな感触のカーペットが敷かれている。エルはそこに、クッションを枕に横になっていた。その手には、読みかけの本。
ルナは、そんなエルに寄り添っている。
「お茶、淹れますね?」
「ああ、頼むよ」
脇の、ティーポットとカップの盆へ、ルナは手を伸ばした。紅茶の香りが、ルナの鼻腔をくすぐる。
どうという事はない情景。だが、ルナは嬉しかった。
「エルさん……」
エルは以前に、言ってくれた。「ルナの心が好きだ」と。
「やさしくて、どこかあたたかくて、ほっとできて、さ……」
そう言ってくれる彼に対し、ルナも同じ。
「私にとっても、エルさんが紡ぐ言葉や心は……」
たとえ他愛なくあっても、エルの言葉はルナにとって大切なもの。それを思うたび、胸がせつなくなる。
熱い紅茶が淹れられ、カップを手渡したルナだが……。
「あっ……」
二人の手が、触れた。
そして、互いの頬が、熱く、赤くなるのを感じた。
いつしか、二人は再び寝転がって互いを見つめていた。沈黙が漂っていたが、それはとても、心地の良い静寂。
エルの手は、ルナの頬へと伸び、静かに触れている。
「ルナは、本当に……可愛くて、綺麗な女の子、だな……」
何度も聞いた言葉、そして、何度も聞きたくなる言葉を、エルは口にした。
彼の添えられた手に、ルナは自分の手を重ね……目を閉じる。
「メリーリヴァイアサンです、エルさん」
「メリーリヴァイアサン、ルナ」
エルが、もう片方の手を、自分の背中へと回し……優しく、静かに抱き寄せるのを、ルナは感触で知った。エルのぬくもりと、暖かな匂いが伝わってくる。
「……?」
すぅ、すぅという静かな吐息を聞き、ルナは目を開いた。
「……寝ちゃった、のかな?」
ルナが見たのは、穏やかな寝顔。彼女は微笑み、側にある毛布を広げると、一緒に包まった。
「エルさん、素敵なリヴァイアサン大祭を、ありがとう。どうか……聖なる夢が訪れますように」
彼にささやいたルナは目を閉じ、エルとともに夢の中へ、眠りの世界へと誘われていった。
眠りに落ちる、その刹那。ルナは小さく、小さくつぶやいた。
「エルさん……だいすきです」