ステータス画面

ふたりのリヴァイアサン大祭

虚空の匣・ブランク
星詠み王子・マティ

■リヴァイアサン大祭『白』

 エルフヘイムのエルフ達に伝わるリヴァイアサン大祭。
 大切な人との絆を確かめ合うこの一日は、ダンスホールへ向かう者、バザールでショッピングをする者、露天風呂を満喫する者など、楽しみ方はさまざまだ。
 そんな中、ブランクとマティの二人は、一風変わった過ごし方を選んでいた。

「寒くはない?」
「大丈夫。コートやマフラーでもこもこだから」
 二人は雪に包まれた森の奥に移動していた。というのも、これから行なうことは広い場所でなくてはできないからだ。
 その場にいるのは二人だけではない。寒さをものともせず、早く早くと言わんばかりに見上げてくる『彼ら』を、ブランクは優しく撫ぜた。
「わんちゃん達、お付き合い宜しく、だよ」
 犬達の体はまるで衣服のように覆われており、そこから伸びるハーネスと呼ばれるベルトが傍らに置かれたそりにしっかりと繋がれている。
 そう、彼らは初体験となる犬ぞりを楽しもうとしているのだ。

 天を覆う空、どこまでも広がる大地、そびえ立つ木々、感動に漏れる吐息。なにもかもが真っ白な世界。
 その中を犬達が駆け抜ける。力強く大地を蹴って、走る、走る、走る!
 最初はバランスを取ることに集中していたが、次第に身を乗り出して辺りを見渡していた。
 藍色の髪を風で振り乱し、マティが笑う。
「犬ぞりなんて、初めて知った!」
 冷たくも清々しい空気に息を弾ませ、併走するブランクに向かって声をかけた。
(「息を合わせるこつを掴んだら、とっても楽しい旅になる。走りたいように走ってな……気の向くままに走るのは俺も心地いい」)
 そんなマティの姿に、ブランクは銀の髪をなびかせながら微笑みを浮かべた。
「景色が、全部白いね」
(「流れいく景色、わんちゃんや僕達の息遣い、まるで夢の中にいるみたい」)
 そして何より、大切な人が隣で笑っているのだと思うと、ますます嬉しくなった。
(「一緒になって白の中を駆け抜ける感覚。風の当る顔は冷えて鼻がちょっと寒いけど……いつもと違う、今だけの素敵な光景をいっぱい楽しみたい」)
 やがてブランクがいいことを思いついた、と目を輝かせた。
「あの丘を目指そうよ! きっとすごく綺麗な景色が見られるよ」
「いい考えだな。わかった、行こう!」
 旅程はまだ序盤。頂上からの雄大な風景を思い描き、2人は心を躍らせた。

 マティ、と呼ぶ声にブランクは首を傾げた。
「犬ぞりって楽しいね。自分の足で駆け回る以外にこんなに楽しいこともあるって、知らなかった」
 丘の上から見下ろす美しい銀世界、飛翔するリヴァイアサンの姿……この光景を忘れることはないだろうと思えた。
 素敵な記憶またひとつ、追加だなと呟くブランクにマティも頷く。
「たまには…道を任せて、走るのもいい。何か新しいものが見つかるかも」
 今日また一つ、楽しくて素敵な思い出が増えたように。
 お疲れ様、と犬達を撫でながら、二人は心から幸せそうに笑いあった。
イラストレーター名:matabi