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ふたりのリヴァイアサン大祭

追憶の鰭・カルカロクレス
華廻エトランゼ・リシャ

■リヴァイアサン大祭『夜は慈しまれるべく静かに』

 火の入った暖炉が室内を優しく暖めている。
 傍に置かれた居心地のよさそうなソファに、カルカロクレスはゆったりと腰掛けてページをめくっていた。
 あくびこそしないがどこか気だるげな様子で、のんびりと文字を追っている。
 暖炉で燃える薪が時折乾いた音を立てる。その他に聞こえるのは、窓の外で祭りを祝う人々の喧騒、そして……。
「カロちゃん、遊びに行こうよー!」
 少女の楽しげな声と一緒に、カルカロクレスの頭の上に精霊バルカンのリラが降ってきた。
 一瞬眉を顰めたが、リラはカルカロクレスの視界を塞ぐわけではなかったので、特に追い払いはしない。
 が、誘われるままに遊びに行く気もない。
「パァース。派手なのが好きなら外行って来い」
 本から視線を上げる事も無く告げられた予想通りの返答に、声の主である少女、リシャは口を尖らせる。
 リシャの手には大きなホールケーキがあり、もう片方の手に持ったフォークでひとすくい、フォークに乗せられた欠片は口の中へ吸い込まれた。
 その一口で気を取り直したリシャは、ソファの横から身を乗り出してカルカロクレスの本を覗き込む。
「なんの本読んでんの?」
 本そのものに興味があるわけではない。
 カルカロクレスが読んでいるものだから興味があるようで、その本の分厚さや文字の細かさには目を瞑って、一緒に文字を追い始めた。
「……頭揃えて読むのか。別に気にしねぇがお前、内容わかってンのか?」
 イノセントをルーツにもつカルカロクレスにとっては単なる読み物で済むが、オラクルをルーツにするリシャには少々厳しいものがあったようだ。
 1行目で半分以上の単語が専門用語である事を悟り、3行目でまったく理解できなくなり……。
「だ、大丈夫、あたしはオラクルだよ! 天啓を授かってるから……わかんないよ、もー!!」
 そして、ページの半分も読まないうちに音を上げることとなった。
「……あたしにもわかるように、説明お願い……します」
 袖を引いて上目に眺めてくる顔は愛らしかったが、その要請にカルカロクレスは応とも言えなかった。
(「……ドコから説明すりゃいいンだ。専門用語だけでも説明するか?」)
 頭の中で、この本を読み解くために必要な知識を羅列してみたものの、彼女に説明するにはどんなに短くとも丸一日以上かかってしまう。
「……めんどい。拒否だ」
 結果、端的な言葉で拒絶する事になった。
 あまりに気落ちしたようなリシャの様子に、ちょっと考えて付け加える。
「その甘いモン食ってろ。……ここに居るのはかまわネェから」
「うん!」
 室内に響くのは、暖炉で燃える薪の乾いた音、外から漏れ聞こえる祭りの喧騒。
 そして心地のいい沈黙だった。
イラストレーター名:matabi