■リヴァイアサン大祭『静かな温もり』
日頃はどちらかといえば不精者と思っているガーディアンの青年と、歌と踊りと身体一つで生きてきたマスターである少女。少女――ラブラドライトはまだ幼さの残る娘で、青年――ヤシュムは彼女のガーディアン。
二人はその日を暖かく静かに過ごすと決めていた。
エルフ達がパートナーの絆を確かめ合う、大切な日だから。
自分たちもそれにあやかり倣おうという二人の部屋には、組み上げられた木が赤々と燃えるレンガ造りの暖炉が設えられており、テーブルには少女が丹精込めたケーキとサラダやオードブル等の料理の数々が並べられた。
ラブラドライトにとってヤシュムは心の拠り所。
ヤシュムにとってラブラドライトは護るべき相手。
そして、互いに恋人同士と想い合っているから、この日の夜は二人でゆっくり食事をする。
二つ用意した椅子。
席に着いて交わす会話は他愛も無い内容で、時折窓から外の雪を眺めながら過ぎる穏やかな時間は、こんなにも楽しくて愛しくて。
明るいオレンジの髪を片方で緩く束ねたラブラドライトは、同じリボンを首にも巻いてアクセサリーとしてみた。
それは、恥ずかしくてとても言えないけれど、わたしをプレゼント……わたしの全てを捧げるという気持ちを込めたから。
そうでなくとも、デコルテを露わにしたオフショルダーのニットワンピースを身に着けた彼女に首のリボンはよく似合っていた。
ヤシュムはいつも着ている仕立てのいいダークスーツ姿。
暖炉の前には大きめの一人掛けのソファが腰かけられるのを待っている。
食事を終え、上着はそのソファの背に掛けてネクタイを緩めたヤシュムはワイシャツのボタンも一つ二つ外し、寛いだ様子でソファに座る。そしてラブラドライトを手招きするのだ。
ここにおいで、と。
それに応え、はにかんで微笑む少女が青年の膝にちょこんと座れば、後ろから腰に手が回されてすっぽり抱っこされる。肩や首筋に彼の温もりを感じた。
大切な人と一緒に過ごす日。
美味しい料理。
優しい時間。
愛しい相手。
素敵な贈り物。
思い出に残るに違いない夜。
こうしようと決めたわけでもなく、互いにそのまま無言の空気をしばし楽しむ。
やがてラブラドライトは後ろを振り返った。
少し躊躇った後にヤシュムの頬に手を添える。
その指先に触れる、彼の緑の髪の手触りと頬の温度に幸せを感じつつキスを贈る。
スキ。
聞こえるか聞こえないかの小さな呟き。
抱きしめられて目を閉じれば、感じるのは互いの鼓動。
その音が互いに聞こえそうなくらい静かな部屋、暖炉の前の二人の耳に、燃えさしの薪が崩れる、カランという音が響いて、時の経過を告げた。
そんな二人だけの、リヴァイアサン大祭の夜。