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ふたりのリヴァイアサン大祭

歌う犬の・カイ
純真無垢程怖いものは無い・マリナ

■リヴァイアサン大祭『雪花の中の契り』

 リヴァイアサンが降らせる雪は確実に降る。
 大祭の夜に降る雪は必ず降るという事から約束の証にも例えられる。それは決して破られない誓いの証。
 カイはマリナを連れ立って高楼へと誘う事にした。
 行き交う人々は段々と少なく、高楼へ辿りつく頃には周囲に誰も存在しなくなってしまっていた。
「う……わ……」
 マリナが息を呑む。そこはエルフヘイムの中央部を一望できるほどの高楼だった。
 遥か眼下では祭りの灯りが夜を照らし、雪に反射し、光の洪水を思わせるほど煌びやかな光景。
「いいもんだろ、一度見せてやりたかったんだ」
 遠くには祭りの喧騒。まるでそこから切り離されたような錯覚を受ける。
 光と雪の華やかなパレードを一望でき、人の少ないこの辺りは穴場の夜景スポットになっているのだ。
 そのパレードを夢中で見つめるマリナの横顔に、カイの心臓が高鳴る。
「あ、あのさ……」 
 顔を赤らめるカイとは対照的に、新雪のような柔らかい声でマリナが笑った。
 華の咲いたような表情に、つい見惚れてしまう。
「どうしたの?」
 無邪気に問い掛けるマリナを見てカイは決心し、口を開く。
「その、マリナ……俺のマスターになってくれないか……?」
 少しだけ赤い顔をしながら、それでも精一杯の真剣な言葉を伝える。
 驚いた表情だったマリナだが、やがて言葉の意味をかみ締めると、頬を染めたまま俯いてしまった。
 沈黙が訪れる。
 やがてマリナは俯いたまま、か細い声で言った。
「カイ、あのね……目を閉じて」
「へ?」
 イエスでもノーでもない返事にカイは面食らいながら、目を閉じる。
「あの、失敗しちゃったけど……」
 ふわりと手に暖かな感触が伝わる。目を開くと、カイの手には毛糸で編まれた腹巻きが載せられていた。
「ほんとはセーターにしようと思ったんだけど……あと、これ」
 顔を上げると、目の前にはマリナの青い瞳が至近距離でカイを覗き込んでいた。
 その澄んだ青色と、長い睫毛に鼓動が跳ね上がる。
 すっと伸ばされた腕には黒いチョーカーが握られていた。
 カイは顔に熱が集まるのを感じながら、手に持った包み紙から中身を取り出すと、白い蝶のような大きめのリボンを彼女に見せた。
 マリナの青い瞳が驚きに見開かれる。
「選んでて遅くなっちまった。その、似合うと思って」
「あのっ! なってくれるかな……私の……ガーディアンに……」
 恥ずかしがり屋のマリナが、精一杯の声を出す。
 カイは少しだけ屈むと、まっすぐに彼女の瞳を見据えた。
「もちろん……よろしく、俺のマスター」
「うん、よろしく……私のガーディアン」
 マリナの手によって首に新たな誓いの印をつけられる。
 カイはマリナの銀髪に良く似合う、白いリボンをつけてやる。
 まるでキスでも交わしてしまいそうな距離がおかしくて、二人はクスクスと笑いあう。
 
 無垢で純真な二人を祝福するように、雪花はいつまでも降り続いていた。
イラストレーター名:うさぎ