■リヴァイアサン大祭『雪華-願い込めて-』
12月24日、リヴァイアサン大祭。それは特別な日――永遠の森が、一面の雪に覆われる日。朝早くから降り続いた雪はエルフヘイムの全てを白く染め上げ、日の落ちた今も一向に止む気配はない。リヴァイアサンの泳ぐ空はすっかり宵色へと移っていたが、どこからか差し込む明りを雪がキラキラと照り返す森の中は、存外に明るかった。
そんな雪化粧の木々の中に一本、一際、来訪者達の目を引くものがある。それは枝葉の全てが雪で出来た、不思議な樹。その樹がつける雪の花は、見つけた人の願い、或いは祈りによって、その姿を変えるという。
「あった!」
ソラが嬉しそうに声を上げた。滑らないよう雪の地面をしっかりと踏み締めて、少女は駆ける。手にとったのは、精巧な細工物の如き雪の薔薇。少し遅れて追いついたアルトファルベの掌にも、純白のヒマワリの花が咲いている。
寒さからかやや丸まった少女の肩にマントをかけてやり、アルトファルベは雪のヒマワリをソラにと差し出した。彼女の願いが叶いますようにと、そう、自らの想いを重ねながら。
「ありがとう」
ヒマワリを受け取ると、ソラは二つの花をそっと胸に押し抱いた。
じわり、じわりと、雪の花がほどける。
煌めく花弁いっぱいに、溢れるような二人の想いが、白いダッフルコートの胸元へと溶け込んで行く。
ソラは静かに目を瞑った。しっとりと心に沁み入る、優しい気持ちを感じながら――やがて、雪の花が完全に消えてしまうまで。
「願いの花、溶けちゃったね」
口元に微かな笑みを浮かべて、少女は言った。形在るものの全てがいずれ崩れると知っていても、消えゆくものに名残を惜しんでしまうのは致し方のない所だ。
「ちょっと寂しいね」
花を惜しむソラの言葉にアルトファルベは僅かに眉を下げ、彼女の手袋に残った花の跡をなぞった。
「でも、大丈夫」
込めた願いは、ちゃんとココにある。
ね? と、ソラが胸に手を当てれば、問われた少年もにっこりと笑みを返し、指先でとんとんと胸を叩いて見せた。
「僕のココにも残るから。忘れないんだぜっ!」
目には見えなくなったとしても、形でない何かを、二人の中に確かに残した雪の花。しかし、捧げた願いが叶うのをただ待つのは、らしくない。
黒い影となった枝葉の天蓋を透かして、二人は夜空に輝く星を見上げる。
「行こう、アルト。願うだけじゃなく、僕たちの願いを勝ち取りに行く為に」
「うん、そうだね」
願いをその手に出来るだけの強さを求めて、どこまでも共に。
「一緒に頑張って行こう!」
微笑みを交わす二人の頭上で、星が流れた。
止めどなく降り頻る雪は静かに、森に生きる全ての命を包み込んでいる。