■リヴァイアサン大祭『リヴァイアサンを待って』
「なんかコレ、グラグラせーへん?」丁度良い大きさの倒れている木に腰かけたカタリは、少しお尻を動かして、その木をグラグラさせてみる。
「お、おい……。やめろよ、揺らすの……」
カタリの隣に座っていたウァッドは、少し驚きながら足に力を入れて体を支えた。
今宵はリヴァイアサン大祭。
1年に1度、この日だけ、水の星霊『リヴァイアサン』が空を舞う日。
大切な相手と、この特別な日を過ごす恋人達は多い。
ウァッドとカタリも例に漏れず――。
(「リヴァイアサン、待ち遠しいわー」)
すぐに木を揺らすのを止めたカタリは、空を見上げる。そんなカタリの横顔を見ながら、
「まあ、あれだ。なんだかんだで二人きりでいる機会って今までそんなになかったよな」
ウァッドは色々思い出すように、ぼそりと呟いた。
「まぁ、そやな。確かにあんまし、うちとだけ一緒っちゅうのは、なかったな」
隣のウァッドを振り返り、八重歯を覗かせながら、にこっと笑う。
「……」
その笑顔が可愛くて――愛しくて、思わず頬を染めてしまった。
(「いっつも騒がしい感じだったが、こう言うのも悪くねえ」)
そんな偶にしか味わえないであろう気分を味わって。
こんな特別な日だ。少しは男らしいところを見せたい。カタリだけに。
「……なんかして欲しい事あったりするか?」
「ウァッドは?」
頬を染めたままカタリに訊ねると、逆に訊ねられてしまった。
「俺は……もうちょい近くにきてくれないか」
照れくさそうに答える。
「ウァッドがこういう積極的な誘いをしてくるのは、うちは嬉しいし、好きやで?」
カタリはその場所を動かず、にこっと微笑んだ。
そこは普通、頷いて、ちょっと控えめに距離を詰めてくれる部分じゃないだろうか。でもカタリは動かない。
「って、俺がせっかく気合い入れてるってのになあ!?」
がくりと肩を落とすウァッド。
「うちは〜、そやな。うちを今以上に女にしてほしいっちゅう注文はアカン?」
隣で項垂れるウァッドを上目遣いで見上げ、軽く小首を傾げながら、『して欲しい事』を答えた。
「……!? そ、それって、ど、どーゆー……」
「どーゆーことかは、ごそーぞーにお任せするで」
真っ赤になって慌てるウァッドを、ニヤニヤ面白そうに眺めるカタリ。
ウァッドの手が、迷いながらカタリの手に近付く。あと1cmくらいだというのに、ウァッドの指は止まってしまう。――顔は正面を向いて真っ赤になりながら。
「?」
その様子に気付いたカタリが、くすりと軽く微笑み、ウァッドに寄り添う。
――空からは雪がはらはらと舞い降り、リヴァイアサンが優雅に舞っていた。