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ふたりのリヴァイアサン大祭

レディバガール・シャラーレフ
福リ音・ネネ

■リヴァイアサン大祭『ねえ、もう一回!』

 しゃらしゃらと澄んだ音を立てて、真ッ白な雪の上を『そり』は滑っていく。はあはあと息を立てて犬たちが、自分たちの牽くそりに追い立てられるように、或いはかしましい『積荷』に急き立てられるように、なおなお足取りを速めていく。
 月明かりが行く先を青白く照らしていた。それでいて去り際の雲たちが未練がましくも粉雪を散らせて遊ばせていた。
 幽玄な光とそれを受けて煌めく雪の花は、大人たちの目にはさても美しく映ったことだろう。その妖しい景色にほうと漏れる溜息でさえ、それらを損なうようではばかられただろう。
 だが少女たちにはそんな気遣いなどなかった。
 美しく稀な自然の芸術も、驚くほど速く後ろへと走り去っていく景色の、その微妙なアクセントにすぎなかった。
「もっともっと!」
 シャラーレフが笑う。
「もっとはやく!」
 ネネもまた続けて笑う。
 急斜面を駆け下りて、より一層速度を上げるそりにつかまって、二人はなお叫んだ。
 期待に応えるというよりは、きゃらきゃらとにぎやかな笑い声に急き立てられるように、犬たちは転げるように足を速める。
 シャラーレフが手がけた揃いの毛皮のブーツと上着は、最初こそ二人を寒さから守っていたが、いまや汗さえにじむほどに興奮した二人にとって暑苦しく思えるほどであった。それでも脱ごうと思わないのは、そんなことに気の回らないほど大いに盛り上がっていたこともあるし、なにより揃いの衣装に身を包むということが少女たちに不思議な高揚感を与えていたからだった。
 何がそんなに楽しいのか。何故そんなに興奮するのか。二人にもそれはわからなかった。だがそれは止めようがなかった。それは外から訪れるものでなく、胸の内から湧き上がるものだった。切なさにも似た甘酸っぱい胸の疼きに、両腕を目一杯振り回しても足りない胸の高鳴り。隣の温もりがそれを一層盛り上がらせた。
 ひょうひょうと冷たい風が火照った頬を撫でていき、木々は風のように後方へと走り去り、そして少女たちは自分たちが不安定なそりの上にいることを忘れた。
「きゃーあー!」
 悲鳴というにはあまりにも楽しげに声を上げて、万歳するように両手を上げたままネネがそりから転げ落ちる。
 それにつられるようにシャレーレフもまた、わっと何もかも放り出すようにそりの外へと飛び込んでいく。
 急に軽くなったそりに犬たちがあおうあおうと吠える声が聞こえた。
 投げ出された先、というよりは身を投げた先は思いのほか柔らかく、心地よい冷たさで二人を抱きとめた。
 まるで雪だるまの出来損ないのようなお互いの形にひとしきり笑い転げたころには、どうやらすっぽ抜けていたらしいブーツの片割れを加えて、空ぞりを牽いた犬たちが戻ってきた。
 まだけらけらと笑いながら犬を撫でてやるシャラーレフに、ネネは雪を払い落としながらいたずらっぽく微笑んだ。
「ねえ、もう一回!」
イラストレーター名:Chai