■リヴァイアサン大祭『rezerv it a-ring o fingr o』
雪原に咲き誇るのは雪の花。リヴァイアサン大祭の日、二人は手を繋いで庭園を歩いていた。思い切り照れながらも、嬉しそうに小さな手を差し出すクラレット。一緒に出かけられるのがとても嬉しくて、顔がにやけるのが止まらない。そんな彼女を優しく見守るハユツクも、彼女と共に過ごせる穏やかな時間に安息を得ていた。「あ……」
何かを見つけたのか、クラレットは小さな声をあげて手を離し、駆け出した。
「クラレット?」
不思議に思いながらも、ハユツクはその背中を追う。だんだん、庭園の奥へと入り込んでいく。そして、一瞬の後に視界が晴れて……目の前に広がったのは、あたり一面の雪の華の花畑だった。
「うわぁ、すごい、綺麗……」
嬉しそうなクラレットの声が花畑に響き渡り、マーガレットのような花々に吸われて、音がすうっと消えていく。雪の多い場所独特の声の響き。追いついたハユツクも、その美しさに息を呑む。
「これは……すごいな」
見とれていたのは、花だけではなく、花畑の真ん中でくるくると動き回る、彼女の姿にも、なのだが。クラレットは花壇のふちにしゃがみこむ。お気に入りの花を見つけたようだ。おもむろに手袋を外した、その中で一輪のマーガレットを摘みとる。
「冷たっ……ねえ、見て見て!」
触れた花弁はとても冷たいけれど、嬉しそうにハユツクに向かって摘んだ花を見せる。触れればすぐに崩れてしまいそうな花びらは、静かに花開いていた。そんな様子ではしゃいでいるクラレットを、ハユツクは微笑ましく見守る。そして一歩、決意を持って歩みを進めた。
「なあ、クラレット?」
可愛い静かに歩み寄りながら、愛しい恋人に問いかける。くるりと振り返ったクラレットの冷えた手を取ったハユツクは、薬指にそっと口付けた。
「ふぇっ……」
一連の動作に、一瞬で思考が止まるクラレット。ぱちぱちと瞬きする彼女は、信じられないものを見るような目で、己の指を掲げ見る。触れた指をそっと離した後、彼女と視線を合わせたハユツクの表情は、変わらずに穏やかだった。
「これ、予約な?」
告白を受け、真っ赤になったクラレットはただ頷いて。すぐに、感極まって泣きそうになった。
「……うんっ!」
そして……花開くような笑みを浮かべ、ハユツクの胸に飛び込む。返事は、承諾の一言を伝えるだけで精一杯だった。抱きついてきた彼女を優しく抱きとめる彼の顔は慈愛に溢れ、髪を撫でる手はとても優しい。
恋人達は祈る。この日の祝福を、いつまでも、あまねく人に分け与えられん事を、と。空泳ぐ精霊は、この地を優しく見下ろしていた。