■リヴァイアサン大祭『お後がよろしいようで。』
立派な枝ぶりのツリーにメルセデスとフェリクスが並んで腰を下ろした。二人が座ってもびくともしない、立派な樹だ。寒さのせいかよく見える雪の結晶を眺めた。はらはらと舞い降る様に言葉が出てこない。美しい。
ふと、フェリクスはメルセデスの髪に舞い降りた雪の結晶がついていることに気付いた。
本人に言うと咬みつかれるが、雪にばかり気を取られた一点集中型の視線は少々子供っぽさを連想させる。
微笑ましく思いつつ、その雪を払おうとフェリクスは腕を伸ばした。意識せず、二人の距離が縮まる。メルセデスの灰色の瞳が「何?」と言うようにフェリクスを映した。
ドキリとしてしまう。
――この特別な大祭の日。別に狙った訳でも無いが、嫌でも心は盛り上がるというものだ。
(「二人で出掛けることを拒まなかったってことは……」)
フェリクスの中で、ぐるぐると思考が巡る。……加速する。
(「……少なくとも、俺の事嫌いじゃない訳だよな!」)
「メ、メル実はさ……俺お、おお、お前が……っ」
加速した思考のまま、雰囲気に乗じてフェリクスは告白を試みた。
が。
まかさの邪魔が、思わぬところから入ってくる。
「カップルだカップルだ」
「ちゅーするかな」
「こらっ、子供はみちゃいけません」
すぐ脇にいた子供たちの、当人たちに全く隠す気のないひそひそ声……というか、分類的に『ひそひそ』していない声が届く。
その声に、フェリクスは固まった。その内容に、メルセデスも固まった。
メルセデスの色白の顔が、見る見るうちに赤くなる。
「なっ、ななな何言ってんのよ! んなのする訳ないじゃない!!」
それは照れのためか、怒りのためか……。せめて、『照れ隠し』であればよかったのだが。
「恋人でもあるまいし……っ!!」
「おわっ!!」
即座に否定したメルセデスに、雪の結晶共々フラグを破壊された憐れなフェリクス。
(「真っ向否定……!」)
突き飛ばされるというオプション付きに、衝撃のあまり声も出ない。
「「「わ〜、おねーちゃんが怒った!」」」
「待ちなさい! こらっ!」
打ち倒されたフェリクスは身を起こすと、はやしたてる子供たちを追うメルセデスを見送ってがくりと肩を落とした。ついでにそのまま項垂れる。
別に泣いてなんかないもん! と、半ば言い聞かせるようにフェリクスは頭を振った。
(「でも、まあ……俺らはこんなノリが似合いですよね」)
自分自身を慰めるフェリクスの肩が、叩かれる。
「……ふぁいと」
いつのまにUターンをしてきたらしい子供たちの内の一人が、一方で拳を握りつつフェリクスの肩をぽんぽんと続けて叩いた。……明らかに『可哀想なヒト』を見る目で。
「ま、負け惜しみちゃうわ!」
まるで心を読んだかのような子供の行動に、フェリクスはぐわっと吠える。
「おにーちゃんも怒った〜っ!!」
「待てコラ!!」
気付けばなぜか、子供たちと共に鬼ごっこが始まっていた。