■リヴァイアサン大祭『仰いだ景色、繋いだ温もり』
次第に白くなる空。太陽が東から姿を現す、新しい1日の始まり。朝陽を受けて、輝く真っ白な雪原。
リヴァイアサン大祭の日、エルフヘイムでは半実体化した水の星霊リヴァイアサンが空を舞い、辺りには雪が降り積もる。この日、エルフ達は『パートナー』との絆を尊重し、静かに世界の平和を祈り合うという。
だから、大切なパートナーと、リヴァイアサンを一緒に見て、共に祈りを捧げる人々は少なくない。
この季節に雪原。しかも一番冷え込むとされる日の出の時間。
あまりの寒さに、星霊バルカンに暖めてもらおうか、など考えていたキサの背後から、ふわりと人の温もりの感じられるコートで包まれた。
「トウジュさん……」
その温もりとトウジュの優しさに、とても暖かく、幸せな気分を、照れ隠しの微笑みに乗せてトウジュを振り返る。
キサを自分のコートで包んで、嬉しそうな表情を浮かべていたトウジュは、振り向いたキサの微笑みに、顔を赤くして、思わずそのまま視線を奪われてしまう。
その微笑みがあまりにも美しくて。朝陽を反射させて輝く真っ白な雪原の中で、漆黒の髪と瞳が本当に綺麗で。
ずっと、穴が開くほど見つめられれば、キサの頬も恥ずかしさでほんのり色付いて、視線を逸らすかのように空を見上げた。
見上げれば、柔らかく降り続く雪と、美しく舞うリヴァイアサン。――そして、大切なトウジュの笑顔。
(「この幸せな空間から、いつかは帰らねばなりません。でも、この寂しさがまた、目の前の景色をより一層透明で美しいものにして……でも……」)
「ちょっと寂しいですね」
キサの口からぽそりと漏れたその言葉に、トウジュはキサを包む腕に少しだけ力を込める。そのキサを包む優しいトウジュの腕に、そっとキサが自分の手を乗せ、
「……今日は、手を繋いで帰りましょうか」
振り向いて柔らかく微笑んだ。
そのキサを腕から放してしまうのが惜しくて、ずっとこうしていたくて、苦笑を浮かべて、悔しそうにゆっくりとキサを開放したトウジュ。
しかし、すぐに、
「手? おう、そうしよ」
嬉しそうに笑って、手を差し出す。その手をキサが握って、
「帰る時だけではなくて、ずっと……あの、よろしいですか?」
遠慮がちに、少し不安そうな色を瞳に浮かべてトウジュを見上げた。
「勿論や。キサこそ俺の手、離さんといてな。これからもずっと……やで」
「はい」
優しい笑顔のトウジュに、キサは本当に幸せそうな心からの微笑みを浮かべて、ぎゅっとトウジュの手を握る手に、想いを込めて力を少し入れた。
――雪とリヴァイアサンの舞う美しい神秘的な景色の中、感じる寂しさは、二人の関係を静かに育む重要な要素のようだ。