■リヴァイアサン大祭『君のぬくもりが、優しくて』
日も暮れ空に訪れるのは夜の帳。冬の夜空に浮かぶ星明りは優しい光を灯し、静かに夜を見守っている。そしてその静かな夜の下を行く2人の姿があった。日付が変わるまで1時間もない頃だろう、街の中央にその足を向けている。
リグレットとセイオンの2人は忙しかった昼を終え、久しぶりのデートで街の中央にあるツリーへと向かっていた。1年に1度の特別な日であるリヴァイアサン大祭を、2人で一緒に過ごすために。
「ふふ、相変わらず喫茶店さんは賑やかなんですね」
セイオンの手を握り離さないまま、リグレットは楽しそうに言葉を紡ぐ。喫茶店の様子を聞くのは楽しいし、星霊ジェナスさんの名前を決まらないというような自分の近況を知ってもらうのも嬉しい。
「ええ、毎日が賑やかで充実していますよ」
答えつつ、セイオンは少しだけこんな時間に連れ出すことに罪悪感を持っていた。
(「ガーディアンとして、こんな寒い中を連れ出すなんて……」)
それでも今日という日を一緒にいたいと願ったのだ。
一緒にいて、こういう他愛ない会話が嬉しくて楽しくて。自分を知ってもらい、相手の今を知ることがとても嬉しい。
お互いがお互いの言葉を嬉しく思っている。その気持ちは、お互いに伝わっていることだった。相手を知り自分を伝えることでお互いの気持ちがより近づく気がした。
広場にたどり着きその中央にあるツリーに2人は目を奪われた。華やかに装飾されたツリー。それはこの特別な夜の象徴世のよう見えたのだ。
もっとも、それは一瞬の事。美しい光景を見つつもお互いが本当に思っているのは隣にいる相手のことだった。
だがなかなか動けない。隣にいる相手への気持ちが溢れそうで、けど今のこの時間も愛おしく感じてしまう。
最初に動いたのはリグレットだった。そっと横を向きセイオンへと小さく微笑みかける。
「ね、セイオンさん」
肩へと手を乗せて背伸びをする。唇を彼の耳へと添えて、そっと甘がみしてから小さく囁きかける。
「キス、したいです」
久しぶりの行為に緊張してしまう。そのままキスしたかったけれど、セイオンの言葉を聞きたかった。
そしてその言葉を聞き、思ったより近い顔にセイオンは鼓動が速くなるのを感じていた。自分の感情が爆発してしまいそうになる。
このまま唇を奪い、全てを独占してしまいたい欲望を感じる。けどど、それを理性で押しとどめる。
「……私も、したいです」
ゆっくりと自分の答えを紡ぎ出す。一時の感情でなく、ちゃんと自分で育んだ気持ちを言葉に出した。
それにリグレットは嬉しそうに笑みを深くした。そして、そのまま2人の顔が近づいて……。
―――大祭の夜、寄り添いあう2人の姿を、星たちと夜空を舞うリヴァイアサンが見守っていた。