■リヴァイアサン大祭『ただいま準備中!』
エルフヘイムに朝が来る。今まで数え切れないほど訪れ、これからもまた数え切れないほど訪れるだろう朝。
だが、今日は年に一度のリヴァイアサン大祭の日。
天にはリヴァイアサンが雪を降らせて舞い踊り、泉は温泉に変わり、小川には甘い蜜が流れ、人々が大切なパートナーと共に過ごす特別な日。
その日の早朝、祭りが始まるにはまだまだ早い頃合から、アリスの部屋は賑やかな声に包まれていた。
「ほら、これなんかどうッスか」
「そ、それはちょっと可愛らしすぎないか?」
辺りに広げた服やアクセサリーの中からいくつか選んで拾い上げ、アリスが満面の笑みとともに差し出した組み合わせにツバキは口ごもる。
アリスが選んだ組み合わせが気に入らなかったからではない。
むしろ、とても可愛らしいと思う。
(「……だが、こんな可愛らしい服は私には似合わないだろうしな」)
着てみたいと思う心をぐっと脇に押しやって、無難な服を拾い上げたツバキの手からアリスがその服を取り上げる。
なにせ二人はこの後、彼氏(仮)やパートナーとデート……の、ようなものを控えている。
決戦に備えて、女の子らしい事に疎いツバキのためにアリスがあれやこれやと女の子の戦闘準備を手伝っている以上、普段通りの格好で妥協するわけには行かないのだ。
「ツバキさんは磨かなくても光ってるんスから、もっと可愛くしたほうがいいッスよ!」
髪をいじって、可愛らしい服を着せて、いろいろなアクセサリーをつけて外して取り替えて。
ここぞとばかりにアリスは楽しそうにツバキを可愛らしくコーディネートしてゆき……。
「だから、磨くとか磨かないの問題じゃなくてだな!」
可愛らしい格好をすることへの恥ずかしさから多少抵抗しつつも、アリスの勢いに流されてツバキはいろいろな衣装に着替えてゆく。
もとより可愛らしいものは好きなのだし、このまま流れに任せて可愛らしい格好になってみるのも、たまにはいいかもしれない。
そんなことを思って、鏡に映った見慣れない格好をした見慣れた顔にツバキはふっと笑い……。
「お姉さんの魅力でドリィくんもイチコロまちがいなし!」
「そういって調子にのって布を減らすな、布を!寒いだろ!」
次にアリスが差し出してきた服は顔を真っ赤にして全力で拒否した。
……まあ、ものには限度はある。
そうして朝から和気藹々と賑やかに姦しく過ごす二人。
だが、そうしている間にも街はリヴァイアサン大祭の開幕準備を進めてゆく。
タイムリミットは着々と近付いている!
しかし服装は全然決まらない!
そしてツバキには可愛らしい格好で外に出るという難関も残っている!
……はたして、二人は無事にリヴァイアサン大祭を迎えることができるのだろうか。