■リヴァイアサン大祭『深い森の中の温泉で二人きり♪』
冷え切った空気の中、ほわほわと湯気が立ち上る。「これがエルフヘイムのリヴァイアサン大祭の時のみに楽しめると言われている温泉という奴か」
呟いて、カミュは足先から温泉に入った。じわりと広がる熱は冷えた体に心地いい。
肩まで湯に浸かると、両腕両足を大の字に伸ばしてゆっくりと湯の中で背伸びをした。
澄んだ空を見上げ、頬を撫でる柔らかな湿り気に息を吐く。
ふと、カミュは人の気配を感じた。誰なのかは、すぐにわかる。
というか、その『誰か』以外では困る。
予測通り、木陰からシスフェリアがひょこっと顔を出した。
カミュはシスフェリアに周囲には誰も居ないことを確認したと伝えた筈なのだが……しきりに周囲を気にしているのが分かった。
カミュは顔の角度を変えないように、目だけでその様子を確認する。
顔を赤く染め、恥ずかしがっている様子がはっきりわかったが、カミュは必死に笑いを堪えてシスフェリアに気が付かない振りをして待つことにした。
(「うぅ、カミュ以外誰もいない、よね……?」)
カミュが気付いていることを知らないまま、シスフェリアはささっと温泉に入った。湯に足を浸け、ちゃぽっという水の音にもカミュは振り返らない。
温泉に入ったシスフェリアは心地よさにこっそり息を吐く。今も、カミュは振り返る様子はない。
(「ちょっとだけ、カミュを驚かしてあげようかな♪」)
悪戯心がわき上がって、シスフェリアは静かにカミュに近づいた。
あと三歩……あと一歩、もう、腕を伸ばせばカミュに手が届く……。
その、瞬間だった。
「どうした、シスフェリア」
カミュの声にシスフェリアは「え?」となる。
何も行動できないまま、シスフェリアはカミュに引き寄せられた。素肌が触れ合い、カミュの正面にシスフェリアは抱きしめられる。
(「え? あれ?!」)
笑いをかみ殺すカミュに気付けないまま、想定外の出来事にシスフェリアは顔を真っ赤にしてオロオロとした。
動揺していたシスフェリアだったが、しばらくしてから温泉のせいばかりではなく、カミュと触れあう場所からも熱が広がり、交わるのを自覚する。
少し、落ち着いてきた。シスフェリアはそろりと振り返る。カミュはシスフェリアの視線に微笑みを浮かべた。それはこらえきれなくなった笑いではなく、穏やかなばかりのもの。
シスフェリアから、カミュに身を寄せた。カミュの緑の双眸を覗き込む。
そっと、唇を重ねる。カミュも、その接吻に応じた。